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新暦71年4月29日、この日、ミッド臨海空港が炎に包まれた。 それは初めは小さな火だったが、すぐに建物全てに燃え広がる業火と化した。 炎は逃げ遅れた人々を遠慮なく焼き、その命をデスの下へとへと引きずり込む。 この青い髪の少女『スバル・ナカジマ』もまた、その炎に包まれた空港の中にいた。 「お父さん……お姉ちゃん……」 スバルは泣いていた。 父を求め、姉を探し、既に火の海と化している空港内を彷徨いながら、ただ泣いていた。 死の恐怖や孤独、もちろんそれも泣いている理由には含まれるが、他にももう一つ理由がある。 先程炎の中で一瞬だけ見えた、炎を纏った人型の巨大な何か。それが辺りに火をつけながら移動するのを確かに見た。 おそらくあれが、ミッドチルダで最近確認され始めた異形……モンスターなのだろう。 モンスター達が多くの人々を殺す。その事実がスバルが泣くのに拍車をかけている。 自分も殺されるのだろうか? 瓦礫の爆発がスバルを吹き飛ばしたのは、ちょうどそんな事を考えていた時であった。 爆風は子供を吹き飛ばすには十分すぎるほどの威力。その爆発によって、スバルは天使像の正面まで吹き飛ばされた。 「痛いよ……熱いよ……こんなのやだよ……帰りたいよぉ……」 スバルはただ、泣いていた。 光がやみ、次にグレイが見たものは辺りを焼き払う炎。 彼は辺りを見回し、落ち着いて自分の今置かれている状況を確認する。 まず理解したのは、ここが建物の中だということ。広さはミルザブールの街にあった城と大体同程度だろうか。 次に理解したのは、どうやら今は何らかの理由で火事になっているということ。 真っ先にイスマス城での事件を思い出すが、あれはモンスター軍団の襲撃によるもの。これとはおそらく無関係だ。 続いて装備を確認。自分が使っていたディステニィストーン『邪のオブシダン』と『水のアクアマリン』がなくなっていた以外は万全の状態だ。 そして最も重要なこと……一緒に来たはずの仲間が周りにいないということを理解。 転移の時に事故でも起こって散り散りになったのか、それともグレイから見えないだけで近くにいるのか。今はそれを確認できる状況ではない。 「……全く、エロールもふざけた事をしてくれる」 とにかく出口を探すべく、すっかり手に馴染んだ古刀を手に歩き出した。 Event No.01『ミッド臨海空港』 ピシィッ。 天使像の根元にヒビが入る。それも不幸なことに傾いている方向は正面……すなわち、スバルのいる方向だ。 だが、当のスバルはそれに一切気付かない。今もこの場で泣き続けている。 「助けて……誰か、助けて!」 ここにはいない誰かへと助けを求めるが、それを聞き届けられる者は誰もいない。 さらに悪いことに、それを嘲笑うかのようにヒビが像の表面へと面積を広げていく。そして―――――ビキィッ。 スバルが音に気付き、後ろを見る。そしてその目に自分への直撃コースで倒れてくる像を見た。 自分の死が確実になっていると本能で理解し、とっさに目をつぶってうずくまる。そんな事をしても何にもならないと分かっているのに。 そして、その像はスバルを―――― 【レストリクトロック】 ――――押し潰さなかった。 「よかった、間に合った……助けに来たよ」 いくつもの光の輪が、倒れこむ天使像を縛り上げて落下運動を封じる。 その後ろ上方には、白い服に身を包んだツインテールの女性……『高町なのは』の姿。彼女の使った魔法が像を止めたのである。 そしてなのははスバルの所まで下りていくと、優しく笑ってスバルを安心させる。 「よく頑張ったね、えらいよ」 死を覚悟したときに来てくれた助け。それはスバルの緊張の糸を切り、再び泣かせるのには十分だった。 但し、今度の涙は先程までのものとは全く違い、恐怖ではなく安堵で流したものだが。 「もう大丈夫だからね……安全な場所まで、一直線だから!」 『上方の安全を確認』 防御魔法『プロテクション・パワード』で護られたスバルを背に、なのはが愛杖『レイジングハート』を構える。 レイジングハートが上空を確認。彼女(AIが女性の人格なので、彼女としておこう)が言うには、上は安全。 それはつまり――――思い切りブチ抜いても問題は無い、という事だ。 「レイジングハート、一撃で地上まで撃ち抜くよ!」 『All light. ファイアリングロック、解……』 空港の天井をブチ抜くべく、デバイスの制限であるファイアリングロックを解除しようとする。 だが、その寸前にレイジングハートが何かの反応を検知。一瞬の後にはその正体を理解し、なのはに報告していた。 『マスター、人間とモンスターの反応を確認しました』 「え!? レイジングハート、数と方向は?」 『数はそれぞれ一つずつ。うち一つはあの少女のいる方向から接近していまs「グオオオォォォォォォ!!」 レイジングハートがそれを言い終える頃には、既にそのモンスターが近くまで来ていた。 魔族系モンスターの中でも高位に位置する炎の魔人『イフリート』。それがそのモンスターの名だ。スバルが見たモンスターというのもこいつである。 「あ、ああ……」 スバルの顔に恐怖が蘇り、へたり込む。 だが、そんな事など知らぬとばかりにイフリートが拳を振り上げた。 【ヒートスウィング】 拳を思い切り横に振り抜き、炎を纏った拳撃を放つイフリート。それを見たスバルは反射的に目をつぶる。 だが、どうやら今日のスバルは「潰されそうになるが潰されない」というパターンに縁があるらしい。 あらかじめなのはが張っていたプロテクション・パワードがスバルを護る。いくらイフリートの攻撃でも、さすがに一発や二発では壊れはしない。 「グルルルゥゥゥ……」 防がれたことを本能で理解するイフリート。どうやらかなり苛立っているようだ。 だが、執念深いモンスターはその程度では諦めない。再び拳を振り上げる。 どうやら一度で駄目なら壊れるまで叩くつもりのようだ。 そして再び―先程までは気付かなかったが、斬撃の痕がついた―拳を振り下ろした。 「させない! アクセルシューター……」 それを視認したなのはが、すぐさま自身の周囲に光弾を形成。その数、およそ十。 目標、スバルへとヒートスウィングを繰り出そうとするイフリート。光弾の発射準備完了。 「シューーーート!」 そして、一斉発射。 その光弾は狙い過たず(外れていたとしても遠隔操作できるが)イフリートへと接近し、そして―――― 【アクセルシューター】 【強撃】 まるで示し合わせたかのようなタイミングで、なのはの魔法ともう一つの反応の主……グレイの斬撃が決まった。 時間は少し遡る。 グレイはこの世界に着いてから、ずっと空港からの出口を探していた……が、一向に見つからない。 まあ、彼はここの構造を知らない上に、出口に繋がっているであろう道も炎や瓦礫で閉ざされているのだから当然ではあるのだが。 おまけにマルディアスにいた炎関連のモンスターまで襲い掛かってくるのだから、そのせいでさらに時間が浪費される。 ……と、またモンスターが近寄ってきた。外見からしておそらくはイフリート。だとすればかなり厄介な相手である。 幸い、以前戦った時にイフリートは聴覚で相手を探しているということを知ったので、やりすごすのは楽だ。一対一でこんなものの相手をするのはかなり骨である。 息を殺し、身を潜め、イフリートが通り過ぎるのを待つ。そしてイフリートが通り過ぎ……る前に、あるものを発見。 グレイがその目に捉えたのは、泣きじゃくるスバルの姿。悪いことにイフリートの進行方向にいる。 彼は必要とあらば人殺しすら厭わない性格だが、さすがに目の前で子供が襲われるのを見過ごすほどの冷血漢ではない。 【光の腕】 だからこそ、刀からの光線をイフリートめがけて放った。 それは見事に直撃し、さらに着弾箇所がパァンと起爆。イフリートを怯ませる。 この行動は、スバルが助かったという意味では吉だったが、グレイにとってはおそらく凶。今のでイフリートに気付かれてしまった。 戦闘開始である。 【払い抜け】 先手を取ったのはグレイ。刀を構え、素早く横をすり抜けるように斬りつける。 そしてその勢いに乗ったまますぐに離脱。何せ相手がどれ程の怪力かは身をもって知っているのだ。喰らったら到底ただでは済まない。 ふと、熱と焦げ臭いにおいを感知。発生源である右腕を見ると、火がついていた。 「ちっ……なるほど、セルフバーニングか」 火を消しながら、この火の原因を理解する。そういえばイフリートは常時火の防御術である炎のバリア『セルフバーニング』を張っていた。 幸い火のダメージも、皮膚の表面が少し焼けただけで大したことはない。 いずれにせよ、下手に近付けばセルフバーニングで焼かれる。ならば離れて光の腕などで攻撃すべきか? そう考えていると、いつの間にかグレイの体が宙に浮いていた。そのままイフリートの正面へと引き付けられる。 (まずい……!) グレイは何度かこの技を見ていたし、受けたこともあったからその正体を知っている。 この技は高位の大型魔族が扱う大技『コラプトスマッシュ』。簡単に言えば目の前まで相手を浮かせ、ラッシュを叩き込むという技だ。 だからこそ、すぐに離れようとするが体が動かない。どうやら念力か何かで引き寄せているようだ。 【コラプトスマッシュ】 ズドドドドドドドドドォン! グレイの体にイフリートからのラッシュが入る。一発だけでも相当の威力があると音で分かるような打撃だ。並の人間なら軽く死ねるだろう。 そのままラッシュの勢いを殺さずにグレイを放り投げ、空港の床へと叩きつけた。その箇所を中心にしたクレーターの出来上がりである。 これで死んだだろうと思ったのか、イフリートがグレイへと背を向けてスバルの方へと歩いていった。 だが、イフリートは一つ大きな誤算をしていた。 「まだ、だ」 それは、グレイがこれで死ぬほどやわではないということ。 確かに普通ならこれで死んでいた。だが、グレイは長旅の間に大いに鍛えられていたのだ。それこそイフリートのような高位モンスターとも真っ向から戦える程に。 もっとも、これでダメージが少ないという訳ではない、というかむしろかなりのダメージを受けているのだが。 イフリートはそんなグレイに気付かず、スバルへと接近。そして咆哮。ヒートスウィングを繰り出すが、それはプロテクション・パワードで止められた。 一方のグレイは刀を杖代わりにして立ち上がり、再び構えてイフリートへと駆ける。 そして、イフリートが二発目のヒートスウィングを放とうとした時―――― 【アクセルシューター】 【強撃】 全くの偶然だが、なのはの攻撃と同時に強烈な一撃を見舞った。 「人……? レイジングハート、もしかして」 『先程キャッチした反応と一致。どうやら彼があの反応の主のようです』 なのはがグレイの姿を見て、先程のレイジングハートの報告を思い出す。そういえば人間とモンスターの反応が一つずつと言っていた。 すぐにその事を問うと、返ってきたのは肯定の意。どうやらもう一つの反応の主はグレイで間違いないらしい。 手に持っている刀と状況から察するに、おそらくイフリートの腕に斬り傷を付けたのも彼だろう。 そのような事を話している間にグレイがなのはに気付き、言葉を発する。 「あの子供とは別の人間だと……?」 グレイが知る限りでは、先程までなのはの姿は無かった。それなのにここにいる。 ならばスバル同様にここに迷い込んだか、もしくは何かの目的があってここに乗り込んできたか、である。 この火災を起こした張本人という可能性も一瞬考えたようだが、それを考え出すとキリがないのですぐに切り捨てた。 それに……今はそんな事を考えている場合ではない。なぜなら、 【ヘルファイア】 イフリートはこの二人の思考が終わるのを待つほど律儀な相手ではないのだから。 なのはとグレイ、この二人からの攻撃はイフリートをキレさせるには十分。怒りに任せて火炎弾を放った。 グレイはこうなることも予想していたのか、重傷の体にムチ打って回避する。 【プロテクション・パワード】 一方のなのはも、すぐさまプロテクション・パワードを展開。ヘルファイアを受け止めた。 このバリアはヒートスウィングでも受け止められる程の強度を持つ。ならば最下級クラスの攻撃術くらい、防げない道理は無い。 「魔法盾だと? イージス……いや、セルフバーニングか?」 それを見たグレイが驚く。このような術はマルディアスでは見たことが無い。 一瞬セルフバーニングや盾を作り出す土の防御術『イージスの盾』が頭に浮かぶが、どちらとも全く違う……ならばこの世界特有のものだろうか? いずれにせよ、こんな事を考えている場合ではない。それよりもイフリートをどうにかする方が先だ。 炎の中で炎の魔物を相手にする事ほどの下策は無い。外に放り出せば少しはマシになるだろう。 だが、グレイ一人では到底無理だ。今の満身創痍の状態はもとより、万全の状態でも厳しいだろう。 キレたイフリートの打撃を避けながら、どうやって放り出すかを考える。クリーンヒットを喰らうのと策を思いつくのでどちらが先かと思いながら。 【アクセルシューター】 「アクセルシューター、シュート!」 声とともに形成された五つの光弾が、イフリートの背に突き刺さる。声の主はなのはだ。 イフリートの出現により救助が遅れているので、いいかげんに何とかしないとここにいる二人も助けられないと思ったのだろうか。 そのままカートリッジをロードし、さらなる光弾を形成して立て続けに撃ち込む。何度も撃ち込めばさすがに参るはずだ。 ちなみに遠くからの攻撃なのでセルフバーニングの影響は無い。セルフバーニングで防げるのは炎のみなのである。 これらの攻撃は確かに効果はあった。だが、それは同時にイフリートの怒りを増幅させる。 次の瞬間、なのはの動きが止まった。その体勢のまま浮き上がり、イフリートの前へと引っ張られる。 これはもしかしなくてもコラプトスマッシュの予備動作。このままいけば徹底的にボコボコにされるだろう。 結果だけ言えば、なのははボコボコにはされなかった。 【かぶと割り】 初撃が打ち込まれる前に高く跳んだグレイが、そのまま頭をかち割るかのような一撃を見舞ったのだ。この体のどこにそんな力が残っているのだろうか。 さすがにこれには参ったのか、イフリートの束縛が外れる。その隙に距離を取った。 さらにその近くにグレイが着地し、なのはが礼を言うより前に問うた。 「おい、奴を遠くに吹き飛ばす術はあるか?」 「え……はい、それならいくつか持ってます(術……? 魔法のことかな?)」 術という聞き慣れない単語に首をかしげるも、おそらく魔法のことだろうと思って返事をする。 なのはの持つ魔法には『ディバインバスター』や『スターライトブレイカー』といった砲撃が存在する。これならばイフリート相手でも遠くへ吹き飛ばすくらいはできそうだ。 そしてその答えに満足したのか、グレイは先程思いついた策を話した。 「あの人達も、モンスターと戦ってくれてる……なのに、私は……ッ!」 スバルは未だ、泣いていた。但し、先程までの恐怖とも安堵とも違う理由で。 あの二人はあんな大物モンスターと戦っている。それも、なのはの方は間違いなく自分を助けるために。 それなのに自分は何も出来ない。それが悔しくて泣いているのだ。 もちろん、何の力も無い自分が行っても一撃でハンバーグにされるのは目に見えている。だが、それでもだ。 「もう嫌だよ、泣いてばかりなのも、何もできないのも……」 【腕力法】 気の補助術『腕力法』で腕力を高め、疾駆。後方ではなのはが杖の先端に魔力のチャージを始めている。 このまま斬りかかって来るかと思ったのか、イフリートが腕を横薙ぎに振るおうと構える。 が、その腕は結果的に空中を空振ることになった。 グレイが床に刀を突き立て、結果的にそれが軽いブレーキとなって減速。結果、そのままなら命中するはずだった腕はむなしく空を切った。 そして、それが大きな隙となってイフリートの命運を決めることとなった。 【天狗走り】 床から刀の切っ先が離れ、それが大きな反動を生む。 そして反動は巨大な運動エネルギーを生み、イフリートの体を直撃した。 エネルギーをその身で全て受け止めることになったイフリートは当然耐えられるはずもなく、空高く舞い上がった。 命中と同時に左腕が燃え上がるが、すぐに腕を振って鎮火する。 そして、その時こそがなのはの待っていた好機。すぐさまレイジングハートを空中のイフリートへと向け、そして叫んだ。 「ディバイィィィーーン…… 【ディバインバスター】 ……バスタァァァァァーーーーーー!!」 閃光。 レイジングハートの先端に集められた魔力が、光の砲撃となってイフリートへと飛ぶ。 砲撃はそのままイフリートを飲み込み、それだけでは飽き足らず天井をブチ抜く。 その結果、天井にはそのまま脱出路に使えそうな大穴が空いた。姿の見えないイフリートはおそらくそこから放り出されたのだろう。 一方の外……正確には空港付近の海面。 「グギャアアアアアアァァァァァァァ……」 海上へと浮かび、これから地獄に堕ちるような悲鳴を上げるイフリートがいた。 イフリートの体は大部分が炎でできている。それが大量の水でできている海に落ちたとすればどうなるか? 答えは簡単。今のイフリートのように体の炎が消え、そのままあの世へと逝く、である。 そうしてイフリートは消えていく体の炎とともに命も消した。 「こちら教導隊01、エントランスホール内の要救助者、女の子一名と男性一名を救助しました」 空港上空。なのはがグレイとスバルの二人を抱えて飛んでいる。ちなみにグレイの意識は無い。 コラプトスマッシュを喰らってボコボコにされ、さらにそこから無茶な戦闘。気の回復術『集気法』を使う間もなく気絶するのは無理もないだろう。 そして二人を抱えているなのはだが、その状態でも平気な顔をしている。一体どこにそんな体力があるのだろうか? 『ありがとうございます! でも、なのはさんにしては時間がかかりましたね』 相手の通信士がはずんだ声で答える。が、それと同時に疑問を返した。 救助に向かったのはエースオブエースとまで呼ばれる程の腕利きの魔導師。それにしては少し救助に時間がかかっている。 大方、要救助者がなかなか見つからなかったのだろうと思った通信士だが―――― 「……中にモンスターがいたんです。多分、かなり強力な」 ――――全く予想もしない形で返された。 『モンスター!? 何でそんなものが空港に……』 いくつかの疑問が浮かぶが、とりあえずそう聞き返す。 それに対し、なのはが返したのは沈黙。彼女にも理由などというものは分からない。 「……とにかく、西側の救護隊に引き渡した後、すぐに救助活動を続行しますね」 そう言うと、なのははすぐに救護隊の元へと飛んでいった。 戻る 目次へ 次へ
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【魔法少女リリカルなのはViVid】の支給品 晴嵐 桂小太郎に支給。 元はミカヤ・シェベルが使っていたデバイスで、日本刀の形をしている。 ブランゼル コロナ・ティミルに本人支給。 ルーテシア・アルピーノが作った魔導器で、コロナの相棒のような存在である。 アスティオン リタに支給。 アインハルト専用の真正ベルカ式のデバイスで、雪原豹のぬいぐるみの形をしている(外装が雪原豹のぬいぐるみなだけで、本体はクリスタル型)。愛称はティオ。 雪原豹とはいっても、実質、ただの猫であり、喋らずに「にゃあ」と鳴いて意思疎通する。表情も豊かで、物凄く喜んだり険しい目をしたりが忙しい。 攻撃補助をしないが、ダメージ緩和と回復補助能力に特化している(ただしそれも限界があるので、ティオ自体の疲労時には使用できない)。 また、本ロワでは仮マスター登録を行う事により、アインハルト以外の参加者でも起動させられるようになっている。ただし制限により本来のマスターが行使した時より性能が低下している可能性がある。 セイクリッド・ハート 高町ヴィヴィオに本人支給。 高町ヴィヴィオの愛機であるハイブリッド型インテリジェンスデバイスで、愛称は「クリス」。 外装はうさぎのぬいぐるみ。 ヘルゲイザー 範馬刃牙に支給。 元はファビア・クロゼルグの使用する箒型のデバイス。 アスクレピオス 宮内れんげに支給。 ルーテシア・アルピーノの持つデバイス。 グローブ型で、手にはめることで使う。 パニッシャー 桐間斜路に支給。 エルス・タスミン(ロワ不参加)が所持している腕輪型デバイス。 インテリジェンスデバイスのように自我は確認されていない。 起動形態は手錠。複数に増やすことも可能。 用途は見かけどおり拘束主体。錠の部分が一番頑丈だが他のデバイスと比べて特に硬い訳ではない。 更に魔力及び体力を消費することでバリアジャケット展開可能。デザインは後の書き手さんにお任せします。
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機動六課司令室は緊迫した空気に包まれていた。 オペレーター達から絶え間なく送られてくる報告の一つ一つを整理し、最も的確と思われる指示を返しながら、グリフィスは額の汗を拭った。 隣のリインフォースⅡも、食い入るようにモニターを凝視している。 傍らの椅子、部隊の最高責任者の座るべき席は空――本来は司令官代理のグリフィスが座るべきなのだろうが、本人は律儀にも立ったまま己の仕事を行っていた。 モニターに映し出される二つの映像――その片方は、輸送ヘリから送られてくる、山間で展開されるなのは達の作戦状況である。 進行状況は極めて良好――ベテランの隊長陣三人が制空権の確保し、経験の浅い新人四人は列車の中に突入し、魔導機械の殲滅している。 順調、文句のつけようもない程順調に作戦は進んでいる――こちらの方は。 問題は……グリフィスはもう一つの映像へと視線を移した。 炎上する市街地、数えることも馬鹿らしい程の量のムガン相手に孤軍奮闘するはやてとフェイトの姿――軌道上の通信衛星から送られてくる、ベルか自治領の様子である。 限定解除した二人の隊長級魔導師は、絶望的な物量差をものともしない圧倒的な攻撃力を惜しみなく振るい、驚異的な勢いでムガンを殲滅している。 しかし大技の連発は体力魔力両面での急激な消耗を招き、ペース配分を無視した無茶な戦い方は必ず破綻を迎えるだろう。 長くは保たない……歯噛みするグリフィスの拳は固く握り込まれ、爪が掌の皮膚に食い込む。 無論、何もせずにただ傍観者に徹する程グリフィスは無能ではない。 機動六課の戦闘要員はなのは達正規部隊だけではない、交替部隊――前線部隊の人員が何らかの理由で不在の際、その穴を埋める人員も用意されている。 ベルカ自治領での戦況報告を受けたグリフィスは、直ちに交替部隊の出撃を命じた。 本来は前衛メンバーのオフシフト時の待機要員としての意味合いが強い交替部隊であるが、正規部隊と同時に出撃させてはならないという規定は無い。 しかし元々正規部隊が到着するまでの時間稼ぎを主目的とした代替戦力、この想定外とも言える敵の物量を相手にどこまで通用するか、不安は残る。 更にそれ以前の問題として――決して考えたくない事態ではあるが――果たして交替部隊が到着するまでの間、はやて達二人は持ち堪えられるのだろうか。 あの二人の実力を疑う訳ではないが、それでも頭に浮かぶ最悪の可能性をグリフィスは否定することが出来なかった。 隣でモニターを見つめていたリインフォースⅡが、突如グリフィス達に背中を向け、まるで逃げ出すように司令室を退出した。 すれ違いざまにグリフィスの目に飛び込んだリインフォースⅡの横顔は、大粒の涙で濡れていた。 「リイン曹長!?」 「放っておけ」 声を上げるシャリオを片手で制し、グリフィスはモニターに視線を戻した。 気持ちは解る……絶望的な状況に陥るはやて達を見て泣き出したい気持ちは、目を逸らし逃げ出したい気持ちはグリフィスも、否、この場の全員が同じだった。 しかしグリフィスには泣き出すことも、逃げ出すことも許されない――何より自分自身が、そのような無様を許せない。 将とは如何なる時も冷静に、そして気丈に振舞わなければならない。 指揮官の動揺は部下の混乱に直結し、そして部隊そのものを瓦解させる。 あくまで冷静に、気丈に、そして普段通りに――それが指揮官としてこの場に立つ、グリフィスの義務なのである。 しかし……リインフォースの消えた自動扉を振り返り、グリフィスはふと思い直す。 放っておけとはいったものの、やはりこのままでは些か後味が悪い……。 「シャーリー」 コンソール操作に戻るシャリオの背中に、グリフィスは遠慮がちに声をかけた。 「やっぱり……リインさんを追いかけてあげてくれないかな?」 冷静に、しかし冷徹はなりきれない自分は、指揮官としては落第かもしれない……甘さを捨てられぬ自分自身に、グリフィスは胸の奥で自嘲する。 司令官代理として「命令」するのではなく、ただのグリフィス・ロウランの顔で「お願い」した幼馴染に、シャリオは親指を立てて了承した。 モニターの中で、なのは達は無事に任務を達成し、はやて達は相変わらず危うい戦いを続けていた。 「……ぅ、うぅ……」 廊下の片隅で小さな嗚咽の声が響いている。 司令室から――モニターの向こうで苦戦するはやてと、状況の改善に奔走するグリフィス達から背を向けて逃げ出し、リインフォースⅡは膝を抱えて泣いていた。 自分は何をしているのだろう……何も出来ない自分、ただモニターを眺めていることだけしか出来ない自分に絶望し、リインフォースⅡはただ涙を流し続ける。 出動要請を受けた時、何か言いようのない胸騒ぎを感じたリインフォースⅡはなのは達との出撃を拒否し、この隊舎での待機を申し出た。 はやての守護騎士としての勘だろうか……リインフォースⅡの予感は見事に的中し、はやてとフェイトは今、絶体絶命の危機に陥っている。 交替部隊の出撃をグリフィスが命じた時、リインフォースⅡも同行するつもりだった。 同じ守護騎士のシャマルとザフィーラも同じ決断に達し、交替部隊と共に出撃していった。 主の危機は自分の危機、そして部隊長の危機は機動六課全体の危機でもある以上、リインフォースⅡ達の選択は当然のものと言える。 では何故、リインフォースⅡは独り、未だこの場所に留まったままなのか――理由は単純である、出撃に間に合わなかったのだ。 機動六課が正式稼動を初めて二週間、部隊長補佐という肩書きを持つリインフォースⅡだが、部署の詳細も隊舎の構造も、未だ完全には把握出来ていない。 特に交替部隊に関してははやてではなくグリフィスの管轄であり、リインフォースⅡはその存在すらも今まで知らなかったというのが本音である。 勝手に意気込んで飛び出し、迷いに迷った挙句に気がつけば独り置いてけぼり……。 肩を落として司令室に戻ったリインフォースⅡを、グリフィスは何も言わずに隣に迎え入れた。 それなのに、この無様……自分は本当に何をやっているのだろう。 惨めさにただ泣き続けるリインフォースⅡの周囲が、いつの間にか薄暗くなった。 停電だろうか……顔を上げたリインフォースⅡは、その時になって漸く、自分を見下ろす人影に気付いた。 ……科学者に化けた熊がいた。 「ひぃやぁあああっ!?」 「……何をやっている」 腰を抜かすリインフォースⅡに、ロージェノムは呆れたように息を吐いた。 「ろ、ロージェノムさん……?」 びっくりしたですーと胸を撫で下ろすリインフォースⅡに、ロージェノムは巌のような顔をにこりともさせずに再び口を開く。 「何をやっている、お前は?」 「…………」 ロージェノムにとっては何気ない、何の意図も無いその問いは、しかしリインフォースⅡの心に深く突き刺さる。 「……本当に、何をやってるんでしょうね。私は……」 顔を伏せ、リインフォースⅡは自嘲するように口を開いた。 「はやてちゃんのために生まれた私なのに、でもはやてちゃんがピンチの今、何も出来ずにここにいるです……」 リインフォースⅡは人間ではない――はやてによって創られたユニゾンデバイス、その管制人格である。 はやてのために生まれ、はやてのために存在する……作り物の生命に過ぎないリインフォースⅡにとって、それだけが己の存在意義であり、そして心の拠り所だった。 「はやてちゃんが呼んでくれれば、私はどんなところにでも飛んでみせる、どんな奇跡でも起こしてみせる……そう思っていたし、そう生きようと決めてたです。 だって、はやてちゃんのことが大好きだから。他の守護騎士の皆に負けない位大好きだから……!」 しかし誓いは破られた。 創造主の危機に馳せ参ずることも出来ずに、こうしてただ泣いているだけの無力な自分……。 痛みを堪えて戦い続ける主に、しかし自分は手をのばすことも、声をかけることも出来ない。 こんな筈ではなかったのに……何もかもが上手くいかない不条理な現実に、リインフォースⅡの幼い心は折れかけていた、砕けかけていた。 「想えば飛べる……か」 リインフォースⅡの独白を聞き終え、ロージェノムはどこか感慨深そうに呟いた。 その時、 「……じゃあ、飛んでみます?」 まるで出番を待っていたかのような絶妙なタイミングで、シャリオが曲がり角の陰から姿を現した。 「……シャーリー?」 困惑の声を上げるリインフォースⅡに、シャリオは柔らかい、そして力強い笑みを浮かべる。 「一緒に飛んでみませんか? リイン曹長の大好きな人のいる場所へ、皆で」 「プラズマザンバー……」 フェイトの掲げた刀身に雷が集中し、 「ラグナロク……」 はやての展開した魔方陣に光がする。 「「――ブレイカー!!」」 気合いと共に放たれた二つの光の奔流が敵を飲み込み、天空を紅蓮一色に染め上げる。 千を数える程存在していた大型ムガンの大群は、今やその半分近くまでその数を減らしていた。 「な、何や……結構やれば出来るもんやないか……!」 「為せば成るってことだね、何事も……!」 荒い呼吸を整え、デバイスを構え直しながら、はやてとフェイトは背中合わせに笑い合う。 出力限定を解除し、聖王教会によるカートリッジ補給支援を受けながらのゴリ押し戦法でここまで戦ってきたが、その効果は予想以上に絶大なものだったらしい。 時空管理局と聖王教会は表面的には協調関係にあるが、管理局本部内では教会との馴れ合いを快く思わぬ者も多数存在しているし、その逆もまた然りというのが現実である。 無断で教会と共同戦線を張り、更に補給まで受けているこの状況は、後々重大な責任問題となって自分達に降りかかってくるだろう。 協力を要請したはやてや実際に支援を受けるフェイトだけでなく、その要望を聞き入れたカリムも、何らかの処罰は免れないだろう。 自分の無茶な「お願い」を快く了承し、身を捨てる覚悟で余所者の自分達を全力で支援してくれているカリムに、持つべきものは姉貴分だなーとはやては改めて感謝する。 しかし、そのおかげで何とかなるかもしれない……僅かな可能性に望みを賭ける二人の思いは、しかし次の瞬間、新たに発生した空間の歪みによって粉々に打ち砕かれた。 蜃気楼のように揺れる空、新たに現れる大量の見飽きた影――敵の増援だった。 「フェイトちゃん……ウチ、泣いて良い?」 「私の方が立ち直れなくなりそうだから我慢して」 元通り――否、それ以上の規模に勢力を回復させたムガン群に、はやてとフェイトは思わず天を仰いだ。 誰か、助けて……絶望に押し潰され、二人の心が悲鳴を上げる。 その時、 ――はやてちゃん!! どこからか、リインフォースⅡの声が聞こえた。 空に――空間に裂け目が入り、巨大な何かが姿を現す。 まるで卵から孵る雛鳥のように、或いは獲物を食い破る獣のように、空間の裂け目をこじ開けながら這い出る鋼の巨人。 完全な人型として洗練されたフォルム――見たことのない、しかしどこか見覚えのある漆黒の巨人に、二人は思わず声を上げる。 「「ラゼンガン!?」」 『否』 二人の目の前に通信ウィンドウが開き、画面いっぱいにロージェノムの顔が映し出される。 『汎用量産型ガンメン、通称グラパール。これはその試作機だ』 『はやてちゃん!!』 淡々と解説するロージェノムを押し退け、今度はリインフォースⅡの顔がウィンドウを占領した。 グラパール腹部のハッチが開き、中から弾丸のように飛び出したリインフォースⅡがはやての元へ駆け寄る。 「ごめんなさい、はやてちゃん……。遅くなっちゃって、肝心な時に傍にいられなくて……」 「リイン……」 胸の中で泣きじゃくるリインフォースⅡを、はやては優しく抱き締めた。 螺旋界認識転移システム――ロージェノムが開発し、埋められていたものをシャリオが発掘した、新型の次元転移装置が、この奇跡を呼び起こした。 宇宙とは曖昧さであり、認識されて初めて確定する――量子宇宙論とも呼ばれる、この宇宙の理である。 認識した物質を元に次元座標を割り出し、時間も空間も無視して対象の元まで一瞬で転移する、それが螺旋界認識転移システムである。 誰にでも使いこなせるものではない。 人の認識力に依存したシステムであるが故に、緻密なイメージ力や強い想いを持つ者でなければ正確な転移は不可能なのだ。 今回の場合は、はやてをを助けたいというリインフォースⅡの強い想いが、はやて達への道を繋いだ――想えば飛べたということである。 「来てくれてありがとな、リイン。それに、ロージェノムさんも……」 胸に抱いたリインフォースⅡと、腕組みして虚空に仁王立ちするグラパールを交互に見遣り、はやてはそう言って泣きながら笑いかけた。 涙に濡れた漆黒の瞳は、希望の輝きを取り戻していた。 「リインが来てくれたから百人力、ロージェノムさんもおるから千人力や。もうあんなガラクタ共に好き勝手させへん、ちょちょいのちょいの超瞬殺や!」 己を奮い立たせるようにそう意気込むはやてに、しかし胸の中のリインフォースは笑いながら首を振る。 「違うですよ、はやてちゃん……千人力じゃないです。皆も来てくれるから一万人力です!」 「……へ?」 「皆……?」 リインフォースⅡの言葉にはやてとフェイトが疑問の声を上げたその時、グラパールの開けた空間の裂け目に新たな変化が起きていた。 まず現れたのは、一本の巨大な筒だった。 まるで砲身のような青い円筒――否、事実それは砲身である。 徐々に姿を現す、戦車に手足を生やしたような青い鋼の巨人――ラゼンガンやグラパールとは大分意匠は異なるが、それはまさしくガンメンだった。 『やっほー、はやてさんにフェイトさーん! 助けに来ましたよー!!』 瞠目するはやてとフェイトを見下ろし、西洋兜を彷彿させる青いガンメン――ダヤッカイザーがぴこぴこと手を振る。 外部スピーカーから響くその聞き覚えのある声に、二人は思わず顔を見合わせる。 「まさか……シャーリー!?」 驚愕したように声を上げるフェイトに、ダヤッカイザーは正解だとばかりに両手の親指を立てた。 唖然とする二人の横で、ダヤッカイザーの広げた空間の穴から更に新たな二つの影――トサカの生えた白いガンメンと、二つの顔を持つ紫色のガンメンが姿を現す。 続々と現れるガンメン達を、空中のはやて達だけでなく、地上で小型ムガン相手に戦う教会騎士達も呆然と見上げていた。 はやての言葉から一騎当千の魔導師部隊を想像していたが、しかし現れたのは謎の巨大ロボ軍団――予想の斜め上を突っ走る「援軍」の登場に、騎士達は言葉を失う。 『切なる叫びが扉を開き、熱き想いが道を拓く!』 戦場全体に轟くような大音量で、ダヤッカイザーが声を張り上げた。 『縁の下の力持ち――』 『――床板ぶち抜き只今参上!』 ダヤッカイザーに追従するように、双頭のガンメン――ツインボークンが言葉を引き継ぐ。 あの声はオペレーターのアルト・クラエッタとルキノ・リリエだろう。 これは、名乗りだ……シャリオ達の口上を聞くはやて達の脳裏に、二人の少女の顔が過る。 鋼鉄の巨人を駆り、名乗りと共に敵に立ち向かう青い髪の少女。 白銀の飛龍を従え、名乗りと共に立ち上がった桃色の髪の少女。 偶然にも敵を前に似たような名乗りを上げた二人の少女は、その前後、二人とも奇跡を起こしてみせた。 『我々は補う者だ――足りぬ力があるならば、我々が追い風となり背中を押そう。 我々は届ける者だ――届かぬ思いがあるならば、我々が橋となり繋ぎ留めよう。 我々は創る者だ――見えぬ未来があるならば、我々がドリルとなり道を掘り進もう。 そう、我々は……助ける者だ』 音を失った――誰もが動きを止めた戦場で、グラパールが朗々と言葉を紡ぐ。 戦士のような気高さと王者のような力強さを併せ持つロージェノムの語りに誰もが呑まれ、そして魅せられていた。 順調に続く名乗りの口上、爆発的に戦場に広がる気合いの波に、しかし乗り切れない者もいた。 「これ、僕もやるの……?」 白いトサカのガンメン――エンキドゥのコクピットで、グリフィスがげんなりとした顔で呻いた。 元々率先して目立つような性格ではない上、自分達とは格の違うようなロージェノムの語りを聞かされた後――及び腰になるグリフィスの気持ちも当然である。 何とか理由をつけて辞退しようと目論むグリフィスだが、そうは問屋が卸さなかった。 『当ったり前でしょ、グリフィス君。 仲間外れにはしないわよ』 『責任重大ですよ? しっかりお願いしますね』 『頑張って下さい! ロウラン補佐官』 応援という形で逃げ道を塞ぐ女性陣に、グリフィスも腹を括った。 『機動六課後方支援部隊、ロングアーチ! 我々を誰だと思っている!!』 エンキドゥの叫んだ締めの言葉と共に、戦士達の反撃が始まった。 天元突破リリカルなのはSpiral 第9話「一緒に飛んでみませんか?」(了) 戻る 目次へ 次へ
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人影にいち早く気がついたガロードはティファを連れて素早く岩陰へと隠れた。 岩に背を預けたまま顔を覗かせ、背後の様子を窺う。 彼の視線の先には四人の魔導師がいた。 内、二人は金髪の若い男。 もう二人は女性で、片方はどう見ても子供だ。 そのことに一瞬戸惑いを感じたがガロードだが、時空管理局は才能と本人の意志さえあれば入局出来ることを思い出す。 恐らくあの子供もそういう者の一人なのだろうと結論付け、再び様子見を始めた。 幸いにもまだ誰にも見つかってはいないようで、ガロード達を探して辺りを見回している。 更に後方にはガロードが潜入した白い船が停泊しており、それを見た彼には魔導師らの目的が容易に想像出来た。 (あいつら……ティファを連れ戻しに来たな) 一難去ってまた一難。 ガロードは緊張を解いた体を再度引き締め、GXを持つ手に力を入れる。 手と額にはうっすらと冷や汗が滲んでいた。 一方、ティファを追って来た四人の魔導師達――正確には二人の魔導師と二人の騎士―― 大破したガジェットを囲み、燦々たる有り様を目の前にしていた。 「I型とは言え、AMFを持ったガジェットをここまで見事に破壊するとはな」 その内の一人、ヴォルケンリッターが将・シグナムはその場にしゃがみ込み、ガジェットの破損具合を見極めていた。 ガジェットの状況や傷口から、破壊した人物の情報を少しでも得るためだ。 先程まで激しく燃えていたであろう炎も今は納まり、今は黒い煙だけが立ち上っている。 しかし破損状況は思ったよりも酷く、ガジェットの残骸から得られる情報は無いに等しかった。 唯一解ったことと言えば、鋭利な刃物で両断されたということ位。 ある意味予想通りの結果に溜め息をつき、シグナムは立ち上がった。 「こりゃ、久々に骨のある相手と戦えそうだぜ!」 その横で、白と赤が目立つバリアジャケットを着た魔導師が己の闘志を燃え上がらせていた。 彼の名はウィッツ・スー。 ジャミルに傭兵として雇われおり、二丁のライフル銃型ストレージデバイス『ガンダムエアマスター』を操るフリーの魔導師である。 根が熱い性格であるウィッツは強い相手と戦えるとあり、任務を忘れて気分を高揚させていた。 そんなテンションの上がるウィッツを、少し離れた所から冷めた目で見ている魔導師がまた一人。 「ウィッツの奴、張り切っちゃってまぁ。やることだけちゃっちゃとやって、ギャラ貰うのが大人じゃないのかねぇ?」 濃い緑のバリアジャケットを身に纏い、腕、肩、足など体中を兵器型のデバイスで武装しているのは、ウィッツと同じくフリーランスで魔導師をやっているロアビィ・ロイ。 体中に装備された様々な兵器型デバイスの管制・運用を行っている高処理性能ストレージデバイス『ガンダムレオパルド』の所有者で、彼もまたジャミルに腕を買われ雇われていた。 ウィッツとは対照的にクールな性格のロアビィは敵の魔導師に大して興味がなく、一見するとやる気がないようにも見える。 「お前! 口動かしてないでさっさと探せよな!」 「はいはい、分かってるって」 その姿勢が癪に障ったのか、すぐ側でティファの捜索をしていたヴィータはロアビィに向かって怒声を浴びせた。 愛機グラーフアイゼンを振りかざして懸命に威嚇するも、残念な事にあまり怖くない。 ロアビィはヴィータを軽く受け流し、ティファの捜索を再開した。 四人はゆっくりと、ゆっくりと、ガロード達へ着実に近づいて行く…… 第二話「あなたに、力を…」 (来る……っ!) スラッシュフォームに変形させたGXを握り、ガロードはシグナム達の動きを伺っていた。 少しずつ近づいてくると同時に緊張も高まってくる。 相手は四人、こちらは実質一人。 圧倒的に不利な状況の中、現状を脱出できる最良の策を必死になって考える。 (ここから逃げても見通しがいいから見つかっちまう。見つかっても逃げきれる方法! なんか、なんかないか!?) 考えれば考えるほど思考は泥沼化し、一向に良い案など浮かばない。 更に刻刻と近づく足音がガロードから落ち着きを奪っていく。 すぐそこまで迫る複数の足音。 頭を抱えて悶え苦しむガロードだったが、ふと、一つの名案が迷走する頭に閃いた。 ……この場合、迷案と言った方が正しいのかもしれないが。 兎にも角にも、もう一刻の猶予も残されていない。 ガロードはこの状況を脱するべく立ち上がった。 横ではティファが心無しか不安げな表情を投げ掛けていたが、安心させる為に笑顔で答える。 シグナム達がいるであろう方を向き、ガロードは隠れ蓑にしていた岩に飛び乗った。 「やーいっ!! お前達!!」 開口一番、大声を張り上げその場にいる全員の視線を集めた。 見た目からして腕利きの魔導師三人(ヴィータは数に入れていない)を前にしても、ガロードの声色は全く変わらない。 一人でアフターウォーを生き抜いてきた彼にとって、こんな状況はさして珍しくないのだろう。 大きな賭は慣れっこなのだ。 「出やがった、なぁっ!?」 「が、ガキンチョだぁ!?」 対するウィッツ達は未知の魔導師の登場に驚愕し、同時に落胆した。 ガジェットを撃破した魔導師がこんな子供という事実に。 特にシグナムとウィッツは久々に実戦で魔導師と手合わせ出来ると踏んでいただけに、落胆の具合も半端ではなかった。 ロアビィとヴィータに関しては呆れ果てて物も言えない。 目の前がそんな状態になっているとは露知らず、ガロードは一世一代の賭け始めた。 「もし攻撃したら恐ろしい事になるぞ! いいか、よーく聞けよ! このデバイスにはなぁ、おっそろしい魔法が記録されてるんだぞ!!」 「ほぉ……それは興味深いな」 かかった! シグナムの呟きを耳にしたとき、ガロードはそう確信したという。 残念な事に、その言葉に含まれていた大きな皮肉の意を全く理解せずに。 妙な自信をつけたガロードは更に続ける。 「だから! それを使われたくなかったら大人しく……」 『Rifle bullet』 『Grenade launcher』 「ん?」 不意に、デバイスの音声が響いた。 ガロードが音声の発生源を見ると、ウィッツとロアビィが自分に向けてデバイスの銃口を見せている事に気がつく。 銃口にはそれぞれ魔法陣が展開されていた。 ……まさか。 冷や汗が頬を伝った瞬間、光の銃弾と高密度魔力弾がガロードを襲った。 「おわああぁっ!? ととっ!?」 急に仰け反った為バランスを崩し、そのまま岩の横へと倒れ込むガロード。 それが幸いし、ウィッツのライフルバレット、ロアビィの放ったグレネードランチャーを奇跡的に避けることが出来た。 が、代わりに左半身が硬い地面に直撃。 少し高さがあった事も手伝い、鈍痛がガロードの体を駆け巡る。 「馬鹿か! んな見え透いた嘘が通じるワケねぇだろ!!」 「嘘はイケないなぁ、嘘は!」 くだらない嘘を聞かされ怒りが増し、今にもガロードを撃ち殺さん勢いで怒鳴るウィッツ。 続くロアビィも言葉こそは軽いが、強い呆れが聞いて取れる。 「く、くそぅ……なんでバレたんだ?」 バレていないとでも思ったのか。 ウィッツ達は痛む脇腹をさすりながら立ち上がるガロードに冷めた視線を向けた。 ……人を騙すにはそれなりの材料とシチュエーションが必要になる。 今回ガロードには、相手に秘密兵器を持っていると思い込ませるだけ材料の不足していた。 更に騙す側が冷静さを忘れてしまっていたのだから、この結果は至極当然と言えるだろう。 一世一代の賭け、早くも終了である。 それでもガロードは立ち上がり、GXの刃先をウィッツ達に向けた。 飽くまでも対抗する気らしい。 「ったく……さっさと伸して船に連れ帰っちまおうぜ。ガキの相手なんかしてられっか」 「待てよ」 「あぁ?」 痺れを切らしたウィッツがエアマスターの銃口を再びガロードに向けようとした時、その行動を止める人物が現れた。 邪魔をされたウィッツは露骨に嫌そうな顔で止めさせた人物を睨み付ける。 意外にもそれは、普段血の気の多いヴィータであった。 ウィッツの睨みにも全く動じることなく、寧ろ睨み返している。 「相手はまだ子供だ。んな目くじら立てなくても、話し合いでどうにかなんだろ。ここはあたしが説得してやる」 エアマスターの銃口を無理やり下ろさせると、ヴィータはウィッツを押し退け一歩前へ出た。 ウィッツは不満に顔を歪めていたが、言い争うのも面倒だと早々に諦める。 因みに、「お前も子供だろ」と思ったのはここだけの秘密だ。 「ヴィータにしては珍しいな。高町なのはに触発されたか?」 「るせぇ」 シグナムの嫌味を流しつつ、ヴィータはグラーフアイゼンを待機フォルムへと変形させた。 実際、ヴィータは『高町なのはの一件』以来確実に大人の対応が出来るようになってきている。 『話し合いの場には武器を持ち込まない』という10年前の自分の言葉を律儀に守っているのも、その影響なのだろう。 発端はともかく、シグナムはヴィータがこの数年で変わってきた事を、将として内心嬉しく思っていた。 「おい、お前」 「な、なんだよ!?」 ガロードはGXの魔力刃を見せつけ、急に声をかけてきたヴィータを威嚇する。 だが彼女は全く気にした様子もなく、涼しい顔で言葉を続けた。 「誘拐、並びにデバイスの窃盗。これだけでも結構な罪だ。普通だったら即逮捕、だな。だけどな、おまえが浚った少女をこっちに渡せば、お前にはまだ弁護の余地ってやつがある。武装を解除して素直に」 投降しろ、とヴィータは言おうとしていた。 ――この後数分間押し問答を繰り返し、最後には自首させる。 どうしても話し合いに応じない場合にのみ、なのは流で『お話する』―― それがヴィータの考えだった。 しかし、それはガロードの爆弾とも言える発言の前に脆くも崩れ去ったのだった。 「うるせえっ! 『チビ』の癖に難しい事ゴチャゴチャ言いやがって! 『ガキ』はお家に帰ってお人形遊びでもしてろよっ!!」 ブツンッ。 ガロードが言い放った刹那。 その場に、張り詰めた糸が、千切れたような音が響いた。 直後、先程まで涼しい顔をしていた筈のヴィータの様子が急変。 腕が微弱に痙攣し、額には血管が浮き出る。 目もつり上がり、まるで鬼の形相かと見紛う程だ。 そして何より、怒りの対象であるガロードだけでなく、無関係のウィッツやロアビィまでもが鳥肌を感じる程の、炎のように赤い殺気を全身に漲らせていた。 「お前ら、引っ込んでろよ……」 腹の底から絞り出したような低い声で後ろの三人を威圧するヴィータ。 既に彼女の手にはハンマーフォルムとなったグラーフアイゼンが握られている。 そして次の瞬間。 「こいつはあたしがぶっっっっ殺す!!!」 阿修羅と化したヴィータがガロードに突撃した。 話し合いを持ち掛けた方がこれでは、もう話し合いも何もあったものではない。 後ろで傍観していたシグナムは、己の考えを直ちに訂正したという。 やはりヴィータはヴィータか……と。 一方、急に襲われたガロードはヴィータを迎えうち、激しい鍔迫り合いを繰り広げていた。 「くっ……!」 「うぉおりゃあああ!!」 ヴィータのとてつもない気迫に押されて行くガロード。 グラーフアイゼンとGXの刃の交差部からは激しい火花が飛び散っていた。 ――このままじゃやられるっ! 危機感を覚えたガロードは全力を持ってグラーフアイゼンを押し返す。 しかしヴィータが後退する気配は微塵もない。 寧ろヴィータの力は増していき、ガロードの方が更に押し返されていた。 それに気づいたガロードはとっさに分が悪いと判断。 押し返すのではなく受け流そうとGXの刃を傾ける。 「うおっ!?」 これは思いの外うまく行った。 真正面に膨大な力が掛かっていたグラーフアイゼンが魔力刃の上を滑るように振り下ろさる。 そのままガロードの体ギリギリを素通りし、地面に小さなクレーターを作った。 ヴィータもグラーフアイゼンと共に大きく前へ仰け反り、大きな隙が生じる。 チャンス到来だ。 ガロードはがら空きになったヴィータの背にGXを振り下ろした。 だがヴィータもこのまま黙ってはいない。 地面を抉って無理やりグラーフアイゼンを引っ張り出し、柄でGXの刃を防ぐ。 「なっ!?」 「ヌルいんだよっ!!」 ヴィータの力技に驚愕し目を見開くガロード。 その瞬間今度はガロードに隙が生まれた。 ヴィータの鋭い目線がそれを捉える。 GXをガロードごと押し返すとグラーフアイゼンを大きく振りかぶった。 「しまっ……!!」 「おらあああああああ!!」 「飛龍一閃!」 鉄槌の一撃がガロードを襲うかと思われたその時。 二人を紫の光龍が襲った。 光龍を素早く視界の端に認めたヴィータはその場から後ろへ跳躍し難なく交わす。 しかし反応が遅れたガロードは直撃こそ免れたが、衝撃波をまともに受けた。 吹き飛ばされ、背中から地面に滑り落ちる。 そのままティファの隠れている岩陰まで砂埃を上げながら引き擦られていった。 「引っ込んでろっつっただろ!!」 今のでヴィータの怒りの矛先が変わったのか、彼女は魔法が飛んできた方を睨みつける。 視線の先にはシグナムが涼しい顔で立っており、愛機であるレヴァンティンを鞘に納めていた。 「お前こそ熱くなりすぎた。我々の任務は飽くまでティファ・アディールの保護。このままお前が暴れれば、近くに隠れているであろう彼女にも危険が及ぶぞ」 「ちぇ! わぁってるよ!」 シグナムの忠告をすんなりと受け入れたものの、やはり怒りの熱(ほとぼり)は冷めないらしい。 つまらなそうに吐き捨て、グラーフアイゼンを肩に担いだ。 吹き飛ばされたガロードはというと、シグナムがヴィータに説教をしているうちに岩陰のティファの下へ戻っていた。 ヴィータの怒りが籠もった攻撃を受けた手は、デバイド越しだったというのに未だに少し痺れている。 ガロードは手を強く振って痺れを紛らわし、同時にヴィータを戒めるシグナムの言葉にしっかりと耳を傾けていた。 そしてシグナムの説教が終わった直後、新たな策がガロードの頭に閃く。 (そ、そうか、あいつらティファを狙ってるんだっけ。それじゃあ……) なんとかこの場を切り抜けるため、ガロードはティファに向き直った。 一方、ヴィータの暴走により蚊帳の外へ追いやられたウィッツとロアビィは、ティファが隠れている岩陰のすぐ側まで近付いていた。 既にティファを視認しており、今にでも確保出来る程の距離だ。 (しっかし、シグナムさんも策士だねぇ。ヴィータちゃんの暴走餌にして、その隙に俺達が目標を確保しろってんだから。出来る女って、俺好みかも) (そうかよ。……そろそろ行くぜ、あのガキ戻って来やがった) (おっ、それはちょっと不味いね。じゃ、1、2の3で行こうか?) (ガキか。まぁいい……1) (2の……) ――3っ! 念話をそこで切り、ウィッツとロアビィはガロード達へと襲いかかる。 いや、襲いかかろうとした。 「っ! 待て!」 「何ぃ!?」 ロアビィが声を張り上げウィッツを引き止めた。 ウィッツも目の前の光景に思わず目を見開く。 なんと、再び岩の上へと躍り出たガロードがティファの首に魔力刃を突きつけているのだ。 驚いたのはウィッツ達の反対側にいるシグナム達も同じで、絶句したまま動けないでいる。 「これでどぉ? 撃てるもんなら撃ってみる!?」 「このヤロっ!」 「おおっと動かない。この子に傷がついちゃってもいいわけ?」 「くっ!」 ティファの首に突きつけられた魔力刃を強調するようにちらつかせ、ガロードは強気の態度でヴィータを脅す。 頭に血が上っていたヴィータも、今度ばかりは迂闊に手が出せないでいた。 そしてヴィータの反応を目の当たりにしたガロードは、今度こそ自分が優位に立ったことを確信し、更に畳み掛けるように言葉を続ける。 「やっぱ撃てないよねぇ? なんたって、あんた達の狙いはこの子なんだから! 少しでも下手なことしたら、どうなるか分かってるよね?」 「ちぃっ! 卑怯なマネを!」 「なかなかやるじゃない」 「ハートのエースはこっちが握ってるって事、お忘れなく!」 『Reflector wing』 シグナム達四人にただならぬ緊張感が漂う中、ガロードの背に銀色に輝く『X』を象った魔力の翼が現れる。 するとどうだろう。 ガロードの体がティファと共に二、三センチ程地面から浮き上がった。 「じゃあね!」 シグナム達に軽くウインクし、ガロードはティファを抱えたまま岩の上から飛び上がった。 そのまま地面に着地し、ホバリングのように地面から少し浮いて一目散に森へ疾走する。 スピードはなかなか速く、滑走した後に砂埃を巻き上げていった。 しかし、それを黙って見つめている程ウィッツの気は長くはない。 「あの餓鬼っ! 馬鹿にしくさって!!」 「待てっ!」 エアマスターの銃口を向け今度こそガロードを狙撃しようとした時、今度はその行動をシグナムによって制止させられた。 「何回も何回も止めんじゃねぇっ!!」 「今攻撃すればティファ・アディールにも確実に当たるぞ!」 「っ! ……くそっ!!」 いい加減に嫌気がさしたウィッツは激情し、シグナムに食ってかかる。 だがシグナムの尤もな意見の前に、ウィッツの怒りはまたも不発に終わった。 溜まった鬱憤をぶつけるように足下の小石を思い切り蹴飛ばす。 そうこうしている内にガロードの姿は既に無くなり、舞い上がった砂埃だけが虚しく漂っていた。 その光景に溜め息をつき、ロアビィはウィッツに話し掛ける。 「俺は一度フリーデンに戻るよ。契約がある間はデバイスのメンテとかタダだし。あそこの技師、腕いいんだよね」 「俺も一服するぜ。……ったくよぉ、一休みしないと腹の虫が収まらねぇ!」 「あたしもだ!」 内から湧き上がる殺意を隠そうともせず、ウィッツとヴィータはフリーデンへ向かって飛び立った。 そんな二人に呆れたのか、シグナムは小さな溜め息をつくと同じくフリーデンへと飛び立つ。 ロアビィはその後を追うように、足に装備したローラー型デバイスで地面を疾走していった。 その頃、上手くシグナム達を撒いたガロードはすぐさま魔力刃を消し、抱えていたティファを降ろた。 辺りの安全をしっかり確認し、バリアジャケットを解除する。 青白い光がガロードを包み、一瞬の内に元の赤いジャケット姿へと戻った。 そしてティファへと向き直り、すこし不安げな表情で彼女の顔を見る。 「……ごめんな、怖くなかったか?」 首に傷がついていないか確認し、心底済まなそうに謝るガロード。 それ対し、ティファは口元を緩ませ仄かに微笑む。 「信じて、いたから」 ティファのこの一言に、ガロードの心が一気に軽くなる。 不安は安心へと変わり、こそばゆい気持ちにティファを直視できなくなる。 「……うん」 照れくさそうに頬を掻きながら、ガロードもティファに微笑み返した。 人質にしたのだから流石にティファも自分に不信感を抱いたのではと不安に思っていたガロードだったが、それはいらない心配だったようだ。 そんな和やかな雰囲気の中、二人を茂みの中から見つめる人影が一つ。 鋭く光るその視線は、ガロードの手にしているGXに注がれていた。 (へへへっ……こりゃ、久々に透き通った酒にありつけるぜ) AFTER WAR LYRICAL NANOHA XtrikerS- 戻る 目次へ 次へ
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祭りから戻ったザフィーラは、居間でのんびりとくつろいでいた。 なのはたちは、なのはの実家の喫茶店『翠屋』を貸し切ってパーティーをやっている。なのはの家族だけでなく、学生時代の友人のアリサやすずかも来て旧交を温めているはずなので、さぞ賑やかなことだろう。 こんなに心安らぐ時は久しぶりだった。この家には晴明や十二神将たちがいる。守りだけでいえば、六課本部など比べ物にならない。 心強い仲間が大勢いるせいか、はやてたちもいつもより気が抜けているようだ。残ったライトニング分隊には悪いが、この機会に主たちには羽を伸ばして欲しい。 「お、ザフィーラ、こんなところにいたのか」 酒瓶を抱えたもっくんがやってくる。 「晴明から酒をもらってな。よかったら一緒に飲むか?」 「いや、せっかくだが遠慮しておこう」 襲撃される危険があるので、さすがにそこまで羽目は外せない。その点、十二神将は普通の酒ならまず酔わない。 「そうか。だが、一人で飲むのもなんだし、茶でいいから付き合え」 「心得た」 ザフィーラの前に皿が置かれ、ペットボトルから茶がなみなみと注がれる。 もっくんは長い爪を器用に使って、おちょこで酒を飲んでいる。 「せっかく付き合ってもらってるんだ。日頃の憂さはないか? この機会に晴らすといい」 今、この家にいる六課メンバーはザフィーラを除けば、スバルとティアナだけだ。その二人も自室に戻っているので、話を聞かれる心配はない。 「憂さではないのだが……」 ザフィーラが重い口を開いた。 「最近、どんどん扱いがぞんざいになっている気がするのだ」 「それは犬扱いが嫌ということか?」 「いや。守護獣だから、それはいい。もっとなんというか……」 「あー。マスコットのような扱いになっているということか?」 「そうだ」 もっくんにも経験がある。昌浩の扱いがどんどんおざなりになり、危うく十二神将ではなく、ただの防寒用えりまきになりかけたことがある。 「それなら、答えは簡単だ。たまに人間形態になるといい。それだけでグンと待遇が良くなる」 相手が人間と同等の存在だと認識させればいいのだ。 「…………」 しかし、ザフィーラは渋い顔をしている。 「どうした?」 「いや、前から思っていたのだが……昌浩もエリオも、よくあの環境に耐えられるな」 六課フォワード部隊の男女比率は男一人に対して女七人だ。はやてやリインが参加すれば、さらに差は開く。ロングアーチやバックヤードスタッフには男性もいるが、やはりフォワード部隊で一緒にいることが多い。 「ザフィーラよ。もしやお前が人間形態にならないのは、男の姿だと居づらいからか?」 「…………」 沈黙が肯定だと告げている。 「ならば、言っておく。昌浩とて、かなり苦労したんだぞ」 小学生の頃、はやてやなのはたちと一緒にいるところを級友に見られ、冷やかされること星の数、喧嘩になること数十回。 昌浩がヴィータと特に仲良くなったのは、幼い容姿のヴィータならば近所の子供の面倒を見ていると言いわけできたせいもある。 ちなみに昌浩をからかった連中を、怒ったヴィータが叩きのめしたことがある。おかげでヴィータは、昌浩のクラスメイトから紅の鉄騎ならぬ、紅の悪鬼の二つ名で恐れられている。 「今、昌浩が平気でいられるのも平常心を保つ修行の賜物だ。後は慣れと諦めだな」 もっくんが目元を覆って涙をこらえる。 そこに勾陣がやってきた。一足早くパーティーから帰ってきたシグナムも後ろにいる。 「酒盛りか?」 「勾か。お前も一緒にやるか?」 「ああ。シグナムはどうする?」 「私も茶でよければ付き合おう」 四人で机を囲む。もっくんは机の上に座っているが、ザフィーラは人間形態になって湯飲みに持ち替えている。慣れるために努力することにしたらしい。 「お前のその姿も久しぶりだな」 シグナムがからかうように告げる。どうやらザフィーラが人間形態を取らない理由を薄々察していたらしい。 「しかし、こうしていると、あの日々を思い出すな」 「私たちには数年前でも、騰蛇たちにとっては千年以上も昔なのだな」 大妖怪窮奇との死闘。先代の昌浩や晴明との出会い、別れ。 ふとシグナムの表情に影が落ちる。 「お前たちは……どうやって」 「シグナム」 ザフィーラが制止する。 それだけでシグナムが何を言おうとしたか、場の全員が理解する。 シグナムたち守護騎士と十二神将はよく似ている。しかし、違うのは、心から慕う主との別れを経験したことがあるかどうかだ。 これまでの闇の書の主は、守護騎士を道具としか扱わなかった。もしかしたら、優しい人もいたのかもしれないが、システムの欠陥で覚えていない。 刻一刻と成長していくはやてと、変化しない守護騎士の差を見せつけられるたび、シグナムは時々怖くなる。はやての死と共に自分たちも消滅できればいいが、もし万が一、生き延びてしまったら、自分たちははやての喪失に耐えられるだろうか。 十二神将たちは一体どんな心境で、先代の晴明や昌浩を看取ったのか。主との別れをどれだけ経験したのか。 それでも以前と変わらずにいられる十二神将を、シグナムは心から尊敬している。 もっくんが酒を一息に煽りながら言った。 「たいした助言はできんが、ただ受け入れるしかない。こういうことは各自で乗り越えていくしかないんだ」 「そうだな」 もっくんと勾陣が寂しげに眼を閉じる。その胸中にどんな思いが渦巻いているか、シグナムには計り知れない。 「すまない。盛り下げてしまったな」 「気にするな。どうせ、この面子(めんつ)で、そこまで盛り上がるわけないし」 「酒を飲んでいるのか」 そこに十歳くらいの黒髪の少年、玄武が現れた。 「我もいただいていいか?」 「お前は駄目だ」 「何故だ? 騰蛇よ、我も十二神将だぞ」 「見た目を考えろ!」 言い合いを始めるもっくんと玄武に、シグナムは思わず笑みをこぼす。ザフィーラも珍しく肩を震わせていた。 賑やかではなくとも、心温まる時間が過ぎて行った。 スカリエッティの研究所では、陰陽師と十二神将のデータの解析が急ピッチで進められていた。 スカリエッティは陶酔したようにキーボードを叩き続ける。 「素晴らしい。陰陽師の性能も素晴らしいが、特にこの男」 画面に紅蓮の姿が映し出される。 「人間の根源的恐怖を呼び覚ます魔力。まさか私の作ったナンバーズが恐怖を感じるなど、ふふ、まったく想定していなかった」 脇に控えていたトーレが悔しげに歯がみする。 『ですが、これでは今後の作戦行動に支障が出ます』 「わかっているよ、ウーノ。だが、十二神将、人間の想念の具現化。これは私もまだ研究したことのない分野だ。どれだけの可能性を秘めているのか、ああ、考えるだけでわくわくする」 ナンバーズ十二機も全て稼働状態に入った。準備は着々と進行している。 『もう一つ問題があります。聖王の器はどうされるのですか?』 ウーノがヴィヴィオの姿をディスプレイに移す。 安倍邸の守りは強固だ。強力な結界に守られ、昌浩と晴明、十二神将の他に六課メンバーまで滞在している。ヴィヴィオの護衛には最低でも数名の十二神将が付き、確保に手間取れば、すぐに増援が駆けつけるだろう。 フォワード部隊が出撃すれば手薄になる六課の本部とは大違いだ。 ガジェットとナンバーズすべてをぶつけても突破できるかどうか。 「そちらは地道に隙を窺うしかないな。あるいは思いがけない抜け道が見つかるかもしれないがね」 スカリエッティは不敵に笑った。 自室で、昌浩は陰陽師の勉強をしていた。時刻は夜の十二時。なのはたちもとっくに帰宅している。 窓から星を見ながら、本を読み進める。陰陽師たるもの、占いができなければ話にならない。寝る前に占いの練習をするのが昌浩の日課だった。 「えーと……あれ?」 昌浩は本と占いの道具を見比べ困惑する。 「未来が……読めない?」 「おいおい、星読みは陰陽師の基本だぞ。しっかりしてくれよ、晴明の孫」 「孫言うな!」 からかうもっくんに怒鳴り返しながら、昌浩は首を傾げる。 「おかしいな。昨日までは占えたのに」 「わからないなら、晴明に聞いた方がいいんじゃないか?」 「……いい。もう少し自力で頑張ってみる」 昌浩は唸りながら、本を読みなおす。しかし、その日、占いが結果を示すことはなかった。 同じ頃、晴明も自室で占いの道具を前に唸っていた。 「どうしました、晴明様?」 銀色の長い髪をした優しい風貌の女性、十二神将天后(てんこう)が顕現する。 「未来が読めん。どうやら大きく運命が動いているらしい」 不吉な前兆でなければいいのだが。せめて手がかりでもつかめないかと、再び占いの道具に手を置く。 「すいません。少しいいですか?」 その時、扉の向こうから、ためらいがちな声がした。 「入りなさい」 天后が扉を開けると、思い詰めた表情をした、なのはが立っていた。勧められるまま、晴明の前に座る。 「そろそろ来るころだと思っていました。ヴィヴィオ殿の件ですな」 「お見通しなんですね」 「だてに年は取っておりませんよ」 晴明は好々爺然とした笑みを浮かべる。 「なら、話は早いです。ヴィヴィオを引き取っていただけませんか?」 なのはは単刀直入に言った。 ヴィヴィオを今回の任務に同行させたのは、安倍邸が理想的な受け入れ先だと思ったからだ。フェイトもそれには同意している。 晴明も昌浩もその両親も、ヴィヴィオに優しくしてくれるし、十二神将とも相性がいいようだ。ちょくちょく太陰と喧嘩しているが、それも友達だからこそだ。 安全面、経済面ではこれ以上望むべくもないし、もしヴィヴィオが魔法に興味を持っても、ここなら教えてもらえる。 ここしばらくの滞在で、これ以上の受け入れ先は望むべくもないと確信できた。 「私もフェイトちゃんもできる限りの協力はします。だから、よろしくお願いします」 なのはは深々と頭を下げた。 晴明は無言で扇を閉じたり開いたりしていた。 やがて、 「本当にそれでいいのですかな?」 「考えるまでもないです。私のような人間が預かるより、ずっと幸せになれます」 なのはは即答する。 なのはの仕事は常に危険と隣り合わせだ。いつ死んでもおかしくないし、仕事によっては、いつ帰れるかもわからない。安倍家ならば、優しい誰かが常に見守っていてくれる。 なのはが顔を上げると、晴明と視線が合う。まるで心の奥底まで見通すような深いまなざしだった。 「急いで結論を出す必要はありますまい。ゆっくり考えるといい。もし、ミッドチルダに帰る時までに考えが変わらないようでしたら、その時は、我が家で責任持って預かりましょう」 「ありがとうございます」 これで心のつかえがとれた。なのはは晴れ晴れとした顔で、晴明の部屋を後にした。 目次へ 次へ
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ヴィヴィオ ランク:B E(魔法少女リリカルなのはStrikerS) 属性 ・女 ・聖王 ・クローン ・人間 敗北条件 固有の敗北条件なし 能力値 ESP能力レベル 5 ESPパワー 40 耐久力 6 精神力 5 特殊能力 ・格闘能力[戦闘][格闘(白兵):2] LV:2の格闘攻撃を行える。 ・インパクトキャノン[戦闘][特殊] 「~弾」と名の付いたCカード使用時、火力を+5する。 ・セイクリッドクラスター[戦闘][主要][攻撃][E] LV:4以下の攻撃Cカードを使用時、能力名を宣言する。 この攻撃に対して逃避行動をする場合、攻撃のLVが1多いものとして扱う。 ESPパワーを追加でCカードのLV分消費する。 ・艦船支援[戦闘][支援][攻撃][M] 聖王のゆりかごの支援により対象1体に対して攻撃を行う。 攻撃方法に関しては艦船支援チャートを参照 備考 Q.インパクトキャノンは能力名の宣言が必要ですか? A.はい、必要です。 このキャラクターへの意見 名前 コメント
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魔法少女リリカルなのは Strikers May Cry 第十六話「悪魔は泣かない」 古代の戦船聖王のゆりかごの上で伝説の魔剣士の血を引く半魔の兄弟が再び巡り合い、以前共に戦った時をなぞるようにその肩を並べた。 「感動の再会って言うらしいぜ、こういうの」 「らしいな」 「まったく驚いたぜ? なんせ緑髪の姉ちゃんに突然“死んだ兄貴からの悪魔退治の依頼がある”なんて言われて。そのうえ“魔法の世界”なんてメルヘンな場所ときた」 「生憎だが一度も死んだ覚えはない」 「そいつぁ失礼。じゃあ俺の勘違いか」 再開を果たした兄弟は眼前の敵などまるで意に返さない口調で軽く語り合う、アーカムはその二人に怒りを露にし魔力を高めて襲い掛かる。 「ごちゃごちゃと喋るなああああ!!!」 高度の魔力を込めたエクスカリバーの刃を振りかぶったアーカムが高速移動で近づき、その凶刃を二人に見舞う。 だがその刃はダンテが片手で持つ魔剣リベリオンで防がれる。 ダンテはさらにもう片方の左手で漆黒の拳銃“エボニー”をアーカムの腹部に押し付けた。 「よう、久しぶりだなハゲ司祭。不っ味いオヤツの時間だぜ」 ダンテは不敵な笑みと共に凄まじい速度で銃を乱射、その弾丸には全てに莫大な魔力を込められているため着弾の衝撃に空間さえ歪み始める。 「ぐがあああ!!!」 あまりの攻撃の威力にアーカムは堪らず防御障壁を展開し大きく後退を強いられる。 「なんだよ鉛の弾は嫌いか? 悪いけど飴玉は切らしてるんでな」 強大な敵を前に不敵な態度を崩さずダンテは挑発まで入れる、その様にバージルの後ろに飛ばされていたシグナムは唖然として目を丸くする。 「バージル、この男は…」 「詳しい説明は後だ、危険だからお前は下がっていろ」 ヴィヴィオを抱き抱えたシグナムにバージルは全身から瘴気と魔力を立ち上らせながら答える、もう何の枷も無い以上は彼が本気にならない理由はどこにも無い。 「おにいちゃん…」 シグナムに抱かれたヴィヴィオが不安そうな眼差しでバージルを見つめる、バージルはそのヴィヴィオの頭を軽く撫でると優しく口を開いた。 「案ずるな、すぐ戻る」 「そうだぜお姫様。こっから先は最高にハードなR指定だ、良い子はママと一緒にカートゥーン(アニメ)でも見てな」 そのヴィヴィオにダンテも軽口をあきながら不敵な笑顔を向ける、しかしそのダンテの言葉にシグナムは顔を真っ赤にした。 「だ、だ、誰がママだ!!」 「違うのか?」 顔を赤くしたシグナムをからかうとダンテは銃をホルスターにおさめてバージルと共にアーカムに向かって歩き出す。 二人の身体から莫大な魔力と瘴気が溢れ出し空気を歪めていく、それは人外の者のみが纏う力。 決して人間の立ちいれぬ領域の気迫を放ちながら半魔の兄弟は眼前の敵との距離をゆっくりと詰めていく。 「それでは仕事の時間だぞ便利屋」 「ああ、前金でたっぷり貰っちまってるしな。派手に行くぜ」 眼前に悠然と歩み寄った二人にアーカムは激しい怒りを覚えその悪魔に成り醜悪になったその顔をさらに歪めて汚く吼えた。 「簡単に勝てると思うなよ屑共がああ!! こうなったら本気で殺してやる!!!」 そう言い放つとスパーダを模したアーカムの身体が大きく隆起し全長5メートル以上の体躯へと変わる。 その異形は、背部及び腹部から新たな腕を生やし、長く尖った尾を持ち、顔に牙を多量に生やした禍々しいものに変わった。 もはや伝説の英雄を模した形跡はどこにもない醜い悪魔がそこにいた。 アーカムは魔力も段違いに高くなりSSSランクに迫るほどであった、しかしダンテは呆れた顔で口を開く。 「おいおい、がっつくなよ。悪役が巨大化したら負ける合図だって知らないのか?」 「関係無いだろう、どんな姿になろうとも殺す事に変わりは無いのだからな」 「そうだな。まあ俺としちゃ、あんまり親父のマネされてると俺の顔までブサイクに思われそうだからこの方が良いぜ」 「ではこちらも本当の悪魔の力を見せてやるとするか」 「そいつぁ良いねえ、それじゃあ“本気の遊び”と行こうぜ」 ダンテとバージルはそう会話を交わすと共に身体に最高の魔力を込める、そして体中から瘴気と共に赤と青の魔法陣が現れる。 それは通常の人間が使う術式を用いたものではない、それは悪魔が生まれながらに使う魔力の発現であった。 莫大な魔力を身体から発しながらバージルとダンテの身体は人外の異形へと変わる。 翼持ち牙を持つ赤と青の悪魔、それは二人の本当の姿であり魔性の力の全てを発揮する身体である。 それこそが“魔人化”悪魔にして悪魔に非ず人にして人に非ず、故に“魔人”。 二人は高めた魔力と共に本来の姿と成り眼前の敵を絶殺せんと全ての力を解放した。 「あれは…一体?」 「なんやあれ!?」 バージル達の救援のため再びゆりかご上部へと飛んで来たはやてとキャロだがその目に映ったのは凄まじい魔力を解放して戦う3匹の悪魔の姿であった。 二人は離れた場所でその戦いの行く末を見守るシグナムの下に下り立つ。その二人と同時に悪魔との戦いを終えたスバル・ティアナ・エリオも駆けつけた。 「部隊長…これは一体?」 「私にも分からんわ…シグナム、これどうなっとるん? あれは一体誰なん?」 ティアナの質問にはやても答えられずシグナムへとその視線を移すがシグナムもまたどう説明すれば良いのか一瞬答えあぐねる、そして最初に口を開いたのはスバルだった。 「この魔力と気配……シグナム副長、あそこで戦ってるのってバージルさんですよね?」 「…ああ、そうだ。もう一人はダンテと言っていた、恐らくバージルが以前話していた奴の兄弟だろう」 その時、通信回線が開き懐かしい声が響く。 『通信大丈夫かしら? はやてさん、聞こえる? もうそちらにダンテさんは着いたかしら?』 「リンディさん!? もしかしてバージルさんの言ってた荷物って…」 『ええ、ダンテさんと言います。バージルさんに頼まれて彼の出身世界からお連れしたんです』 「そうなんですか…それにしても凄い力やな~これは私らが手出しできるもんとちゃうで…」 はやて達の眼前では人間の踏み込めない領域の戦いが繰り広げられ、半魔の双生児が絶対的なる死の舞踏を舞い踊っていた。 「ぎゃぐあああああっ!!!」 耳をつんざく凄まじい雄叫びが響き、爆音と共に赤い影が躍り巨大な悪魔に白刃を突き立てる。 それは魔人化したダンテが極大の魔力を込めた最強の刺突技スティンガーをアーカムに叩き付ける様だった。 ダンテの振るう魔剣リベリオンはアーカムの展開した4重の防御障壁と強固な外殻を紙の様に裂きその身体に根本までその刃を深く突き刺す。 「どうした悪魔司祭? まだダンスは始まったばかりだぜ!!!」 ダンテの叫びと共にさらに魔剣は休むこと無く突き刺さった場所を抉り、刀身が四方に踊ってアーカムの身体を斬り裂く。 舞い踊る魔剣リベリオンの斬撃は超高出力の魔力を纏ってアーカムの身体を斬り裂き抉り、容赦なく破壊していく。 「調子に乗りおってえええ!!!!」 アーカムは背と腹部から生やした4本の副腕と両腕のエクスカリバーを振りかぶり、自分の身体に斬撃を刻むダンテに向かって鋭い爪を打ち下ろす。 だがその6本の腕がそれ以上動くことは無かった、何故ならその腕全てに魔力で作られた無数の幻影剣が突き刺さりその動きの全てを殺していたのだから。 「調子に乗っているのは貴様だろう…屑が」 魔人化を果たしたバージルは展開数も威力も普段の非でない程に強力な幻影剣の刃をアーカムに連射して吐き捨てるように呟いた。 「それじゃあ“お空”に吹っ飛びな!!!」 「ぐひゃあああ!!!」 幻影剣により腕を串刺しにされたアーカムに無数の斬撃を刻んだダンテは続けて渾身の力を込めた斬り上げの斬撃“ハイタイム”でアーカムの巨体を宙に飛ばす。 「さあ鉛弾のご馳走だ、俺のオゴリだからたっぷり喰えよ!!」 魔人化したダンテの魔力を込められ爆発的に威力を増した二丁銃の弾丸が嵐のような激しさで宙のアーカムに襲い掛かる。 魔弾の破壊力はアーカムの巨体を宙に浮かせる程の衝撃を与える。 「がはあああっ!!!」 アーカムは超高速で乱射される弾丸の嵐に宙に釘付けとなり容赦なく命と魔力を削られる。 さらにそのアーカムの目の前に空間転移で移動したバージルが現れ閻魔刀の刃を閃かせた。 「銃弾だけでは物足りないだろう? 妖刀の刃もくれてやる」 怒りと侮蔑を声に込めて強力な魔力を宿した閻魔刀の白刃が宙で無数に舞い踊り、音速にすら達する程の居合がアーカムの身体を数多に刻む。 銃弾と妖刀の奏でる二重奏の圧倒的な殲滅力に魔力と身体を削られるアーカムは堪らず全力で防御障壁を展開して後退した。 「糞っ! 糞っ! 糞共があああ! 貴様らごとき半魔の若造風情がっ! よくもこの私の身体を傷つけてくれたなああ!!」 アーカムは激情にその醜く変わった容貌をさらに歪めて怒りの雄叫びを上げ、身体の魔力を高めるそして手にしたエクスカリバーにその莫大な魔力を収束していく。 「あの攻撃は少々やっかいだぞダンテ」 「まかせとけって、軽く受け止めてやるよ」 敵の強力な攻撃に対するバージルの注意にダンテは軽く返しながら背にリベリオンをしまって、アーカムに向かって挑発を入れる。 「C mon, wimp!(来な、ノロマ野郎)こっちは無防備だぜ」 「糞共がああっ!! まとめて死ねえええええ!!!!」 スターライトブレイカーにすら匹敵する程の破壊力を持ったエクスカリバーの魔力波動がダンテに放たれる。 ダンテはその黄金の魔力の渦を受け爆音を上げて煙の中に包まれた。 「げひゃひゃはっ! いくら貴様でもこの攻撃を受けて生きてはいられまい!」 アーカムは勝利の確信に下卑た声を荒げて笑うが晴れた煙の中から現れたのは先ほどと変わらずに立っているダンテの姿だった。 「なんだよ、もう終わりかい?」 ダンテは十字に交差させた腕から煙を上げながら唖然とするアーカムに口を開く、彼はただの両腕のクロスガードでエクスカリバーの攻撃を防いだのだ。 それは“ロイヤルガード”と呼ばれるダンテの魔技の一つであり、物理・魔力を問わず敵の攻撃のエネルギーを吸収しカウンターの反撃に回す最高の防御技術であった。 例えどんなに強大な破壊力を持った魔力波動だろうが単純に一直線で向かってくる攻撃にタイミングを合わせて防ぐなど、数多の悪魔を屠ってきたダンテにはあまりにも容易な事である。 ダンテは背の翼を翻し高速移動と空間転移“エアトリック”でアーカムに接近、アーカムは先の一撃を防がれた精神的な衝撃により反応を一瞬遅らせる。 「Time to rock!!(それじゃあ、ロックの時間だぜ!!)」 ダンテはそう言うと、スターライトブレイカーに匹敵する程のエクスカリバーの魔力エネルギーを吸収した腕にその吸収したエネルギーを全て込めた拳を叩き込んだ。 「げびゃあああ!!!」 大気が歪み空間が裂ける程の魔力エネルギーを持った拳の一撃を受けてアーカムがその巨体を大きく吹き飛ばされる。 そしてそのアーカムの吹き飛ばされた後方には大量の幻影剣を発射寸前の状態で待機させ、閻魔刀に最大最強の魔力を込めた居合いを放たんと構えるバージルの姿があった。 そのバージルの持つ絶対的な威圧感と殺気にアーカムは悪魔となったその身に死の恐怖を感じる。 「Die(死ね)」 バージルは静かに一言だけ言い放つと周囲に展開していた幻影剣を射出、同時に閻魔刀を抜刀し周囲を埋め尽くす程の広域次元斬の刃を躍らせる。 バージルはその嵐の如き激しい斬撃の渦でもってアーカムの身体を徹底的に斬り刻んだ。 バージルの放つ広域次元斬の空間を抉る斬撃の嵐を受けるアーカム。 そのアーカムの頭上に空間転移エアトリックで移動したダンテがリベリオンを天高く振り上げて現れる。 「オラアアア!!!」 そしてダンテは掛け声と共に魔力を込めた振り下ろしの斬撃兜割りをアーカムの脳天に叩きつけてその顔を二つに割った。 「ぎゃああああ!!!」 アーカムの叫びが響きダンテは着地すると同時にリベリオンを翻して凄まじい速度で無数の刺突を繰り出す。 「せっかくのパーティーなんだ、もっと踊ったらどうだい?」 ダンテは軽く言葉を吐きながらリベリオンの刃を血で潤していく。 そのダンテの猛攻にさらにバージルが閻魔刀で放つ抜刀術、疾走居合いの刃が加わりアーカムの身体を刻む。 「こいつには無様に踊ってもらおう…死の舞踏をな」 「なるほど、そりゃあ悪くなねえな。じゃあ激しいダンスと行こうぜ!」 ダンテの振るう慈悲無き魔剣の剣閃にバージルの放つ妖刀の軌跡が混じり、双魔の兄弟は最強の魔力を持つ魔の刃を舞い躍らせる。 「げはああっ…あぁぁあ…この私が…貴様ら風情に…」 魔人化した最大の攻撃力でもって繰り出されるバージルとダンテの猛攻にアーカムの身体は破壊し尽され、もはやその身は虫の息であった。 「そろそろ死ぬ時間だぞ屑」 「そろそろ地獄の片道キップをプレゼントしてやるぜ」 ダンテが二丁銃を抜き魔力を込めた弾丸を放とうとした瞬間、アーカムが最後の力で射撃魔法を発射。 その攻撃にダンテが右手に持っていた白銀の銃“アイボリー”を宙に飛ばされる、そしてその銃はダンテの横に並んでいたバージルの手に受け止められた。 二人は片手にその二丁銃を構え弾丸に高出力の魔力を込めていく。 「しっかし、またこいつに“コレ”を決めるとはね」 「まったく因果なものだな」 「Sweet dream(オネンネしてな) それじゃあまた“合言葉”で送ってやるぜ」 「地獄で悔いろアーカム」 二人は言葉と共に魔力を最高域に高めた弾丸を撃ち込み同時にその言葉を吐いた。 「「Jack pot!!(大当たりだ)」」 爆音と業火を巻き起こしながら弾丸に込められた莫大な魔力を受けてアーカムがその身体を消滅させていく。 「馬鹿なあああああ!!! この私が! この私がああああ!!!」 そして闇に溺れ悪魔にその身を堕とした背徳の司祭は今度こそ微塵も残さずこの世から消え去る、後にはその悪魔の振るった聖剣の名の得物のみが残された。 悪魔の司祭が塵一つ残さずに消滅したのを確認したバージルとダンテは同時に魔人化を解き元の人間の姿へと戻る。 「ちょっと出血大サービスし過ぎたな。こんだけ魔人化使ったら腹が減ってきたぜ」 自分の腹を軽く叩きながらそう呟くダンテに手の銃と共にバージルが言葉を投げる。 「報酬を払われているのだ、その分は働け」 ダンテはバージルが投げ返したアイボリーを受け取りながら軽口を叩き両手の二丁銃をクルクルと回す。 「バージルさん! 大丈夫ですか!?」 その二人の下に戦いを見守っていたはやて達が集まる。 「ああ大事無い」 バージルははやての言葉に静かに答える、その彼の下にヴィヴィオを抱えたシグナムが駆け寄る。 「バージル…」 「おにいちゃ~ん」 これまでの戦いや先の魔人化により魔力・体力を多大に消耗したバージルにシグナムとヴィヴィオは不安気な視線を送った。 「そう心配せんでも俺はこの程度では死なん」 バージルはそう言うとヴィヴィオの頭を軽く撫でて優しい眼差しをシグナムに向ける。 「おいおい、なんだよバージルやっぱお前の子供とカミさんか? なんで“お兄ちゃん”なんだよ?お前の教育方針か?」 「ば、ば、ば、馬鹿者おおっ! だ、だ、誰が“カミさん”だ!!」 シグナムは真っ赤になってダンテのジョークに反応する、はやてやフォワードがそのシグナムの反応に苦笑し場には穏やかな空気が流れる。 その時ダンテがふとバージルに声をかけた。 「ところでバージルこれからどうすんだよ?」 「何がだ」 「だからよ“あの時”の続きをやるのかって話だ」 ダンテはそう言うと手で回していた二丁銃をバージルに向けて構える、バージルもそれに応えるように即座に閻魔刀の柄に手をかけた。 「今からリターンマッチと行くかい?」 「…今ここでやる気か?」 「別に俺は構わねえぜ。それにお前なら早く殺り合いたくてしょうがねえんじゃねえか?やるなら早く済ませようぜ」 「…………」 場の空気がカミソリのような鋭さと鉛のような重さを持ち、兄弟は再びかつての邂逅のように一触即発の様を呈する。 バージルとダンテの間に流れる気迫の重圧にはやて達は圧倒され身動きができない、しかしその二人の間に幼い声が響いた。 「だめえええ!」 それはシグナムに抱えられたヴィヴィオの声だった、ヴィヴィオは涙ぐんだ瞳でダンテを睨み付ける。 「ぐすっ…バージルおにいちゃんイジメたらだめ!」 そのヴィヴィオの眼差しと言葉にバージルとダンテは一瞬で毒気を抜かれた。 「ははっ、こりゃまたおっかねえお姫様だ。おっかねえからケンカは無しと行こうか“お兄ちゃん”♪」 「……まったく敵わんな」 バージルとダンテは互いに得物から手を引き身体から発散していた殺気を鎮める、場の重圧が解けてはやて達は思わず息を吐く。 「ふ~、いきなりドンパチ風味はカンベンやで~」 「わりいな嬢ちゃん。久しぶりの兄弟感動の再会で興奮しちまったのさ」 その時ゆりかごが大きく揺れ動き、はやて達の足場を震えさせた。 「まだゆりかごが上昇しとるみたいやな…とりあえずここは危ないから転移魔法で離れるで~みんな動かんといてな。リィン、転移魔法陣の展開手伝って!」 「はいです」 「小っちゃな妖精さんもいんのかい? ホントにメルヘンな世界だぜ」 「リィンは小っちゃくないです~! ちょっと小柄なだけです!」 リィンとダンテが軽くじゃれあいながら、はやての形成した転移魔法陣が発動しその場の全員をゆりかご眼下の森へと転送した。 「もうあかん…しばらく魔法は使わんでいいわ…」 森へと下り立ったはやては度重なる疲労に膝をつく、それにならうようにフォワードメンバーもその場に座り込む。 「とにかく…ゆりかごの飛行速度も落ちとるみたいやから後は局の次元航空艦隊がなんとかしてくれるやろ~。ところで…」 はやては上空のゆりかごから視線をダンテに移し話しかけた。 「ダンテさんでしたっけ? バージルさんとは双子なんですか? そっくりやけど」 「まあな」 「しかし素肌にコートとは、なんちゅうエロ素晴らしい……いやっ! ハレンチな格好を」 「匂い立つ男の色気にリィンも思わず生唾ゴクリです~」 「何エロ発言してんだよバッテンチビ」 「うるさいです~そっちだってエロイ服と変な髪形のくせに~」 「誰の服がエロだ~!」 「こらリィン! そういうセリフは女同士の時だけやで~」 「いけないですっ! お口にチャックです~」 「ハハっ凄え話だなおい……しかしこのファッションが分かるとは良いセンスしてるな嬢ちゃん♪」 くだけた話をするダンテとはやてにリィンとアギト、全ての戦いが終わりを告げ疲弊していた他の者も緩やかな空気の流れに思わず苦笑を漏らす。 「ところでダンテ」 「なんだよバージル、リターンマッチの予約ならまた今度にしな。俺は今腹が減って死にそうでね、近頃は金がなくってピザを食うにも困ってんのさ」 「報酬の件だ」 「報酬? もう前金でたっぷりもらってるぜ。ついでに言うと借金返済でほとんど消えたけどな」 「後払いの報酬がある……受け取れ」 バージルはそう言うと首から下げていた“モノ”をダンテに投げ渡した、それは父と母の形見であり二人にとって亡き家族の最後の思い出だった。 「っておい!! こりゃアミュレットじゃねえか!? 良いのかよ! これは親父と母さんの……」 バージルはそのダンテの言葉にはやてやフォワードメンバー、それにシグナムとヴィヴィオをゆっくりと一瞥してから静かに口を開いた。 「構わん、俺はここで色々と抱えてしまってな……そいつは俺には少し重すぎる、これからは貴様が持て」 「そうかい…………分かったよ、“兄貴”」 ダンテはバツの悪そうな…だが嬉しそうな顔で苦笑してバージルの言葉に小さく返した。 「さて嬢ちゃん。俺は腹が減ってんだけどこの辺でピザが食える所は無えか?」 バージルからはやてに顔を移したダンテがさっそく大好物のピザの話に切り替える。 「そんなにお腹空いてるんやったら私がピザ作ったげますよ~♪ こうなったら大勝利記念に世界一大きなピザでも作りますか!」 「お~良いねえ。でもオリーブは抜いてくれよ?」 「世界一大きなピザ…なんだか魂の奥底からワクワクしてくる言葉です~」 はやての世界一大きなピザ発言にダンテとリィンが大喜びし、フォワードメンバーも騒ぎ出す。 「ピザか~そんな話聞いてたらなんだかお腹空いちゃったよティア~」 「まったくあんたは…でも確かにこれだけハードな戦闘の後じゃあしょうがないわよね~」 「キャロもお腹空いてる? 良かったら携帯食のスティックが一つあるけど」 「私はいいよ…エリオ君のなんだし…」 「それじゃあ半分づつ食べようよ?」 「そうだね…」 「部隊長! ここにいちゃついてる不届き者がいます~!」 「何言ってんのよバカスバル…」 「なんやって~!! この部隊長を抜け駆けして彼氏作るとはいい根性やー!」 「うわ部隊長もノリノリだし!」 「おいおい~魔法の世界じゃソッチの方も進んでんのかい?」 そんな穏やかな喧騒の場にシャマルや救護班を乗せたヘリが到着する、ヘリのハッチが開くと同時に駆け出して来たのはなのはだった。 「ヴィヴィオー!」 なのははヘリを降りるとヴィヴィオを抱き抱えたシグナムの下に駆け寄る 「ヴィヴィオ…ごめんね遅くなって…」 「ぐすっ…ママ~」 こうして非道なる悪魔に引き裂かれた親子は優しき魔剣士の手によりまた再開を果たした。 シグナムから受け取ったヴィヴィオをなのはは今度こそ離さぬようにしかと抱きしめた、ヴィヴィオもまたそんな母にしっかりと抱きすがる。 その様子をバージルは離れた場所で見守る、心なしか微笑を含んだ彼の顔は今まで彼の見せたどんな表情よりも優しかった。 ヘリで到着した医療班に治療を受けるはやてやフォワードメンバーになのはと再会したヴィヴィオ。 激闘を経て平穏を得た皆を一瞥しバージルは張り詰めていた緊張が解けたのか、それとも今までの疲労がたたったのか足がふらつき転びそうになる。 しかし彼が感じたのは土や草の感触ではなかった、それはもっと温かく柔らかいものだった。 「…すまんな」 「何、気にするな」 ふらついたバージルを受け止めたのはシグナムだった、シグナムは抱きしめるようにバージルの身体を優しく支える。 「バージル、お前も傷ついているのだから早くシャマルや医療班に治療を受けろ」 「俺は構わん、他の者の治療の方が先だろう…悪魔の身体はこの程度で…」 そのバージルの返事にシグナムは眉をひそめ、バージルが言葉を言い切る前に彼の額にデコピンを見舞った。 「…何をする」 「お前がまたそんな事を言うからだ。言っただろう…お前は人間だバージル。不器用で優しい人間だ」 シグナムは強い意志を込めたそして優しく温かい眼差しで真っ直ぐにバージルの瞳を見つめる。 「ふうっ……まったくお前には敵わんな、シグナム」 「………」 シグナムの言葉にバージルは観念したように息を漏らして返す。 しかしバージルのその返事を聞いたシグナムは何故か顔を赤く染めた。 「どうしたシグナム?」 「いやっ…その…先ほどのゆりかごの上でもなんだが…お前が私を“シグナム”と呼ぶのはなんだかむず痒くてな…」 シグナムのその言葉の通りバージルは今までシグナムの事を烈火と二つ名でしか呼んでこなかった。 だが先のゆりかご上部での戦闘中、シグナムとヴィヴィオを身を以って守ろうとした時からシグナムを名前で呼んでいたのだ。 バージル自身もこの変化をシグナムに言われて初めて知り、自身の変化にバージルは意外そうな顔をする。 「そうだったか?」 「気づいていなかったのか? まったく……とにかくこっちに来い怪我人!」 シグナムはそう言うとバージルを近くの木の木陰に引いて行く、そしてその木の根元に座り込むとバージルを引き倒す。 「一体…なんのつもりだ?」 「怪我人はおとなしく寝ていろ。これなら少しは休めるだろう?」 シグナムは座り込んだ自分の膝を枕にしてバージルを無理矢理に寝かせたのだ。 「まったく勝手な女だな…」 「私の膝枕では不満か?」 「そうだな…悪くは無い…」 木漏れ日の下で温かく柔らかい膝に身を委ね、バージルは静かに目を閉じてまどろみに意識を落とした。 そしてその二人の下にヴィヴィオが慌てて駆けて来た。 「おにいちゃ~ん」 「ヴィヴィオ、静かに」 「あれ? おにいちゃんねちゃったの?」 「ああ」 「そうなんだ…なのはママに“たすけてもらったおれいをいいなさい”っていわれたのにな~」 「起きてから言ってやれヴィヴィオ。今は静かに寝かせてやろう」 「うん」 そしてヴィヴィオはシグナムとバージルの横にちょこんと座り込むと、おもむろに口を開き静かに歌を口ずさみ始めた。 「…それは?」 「まえにおにいちゃんがおしえてくれたの♪ “あくまはなかない”っておうたなんだよ。おにいちゃんのママのおうたなんだって」 「そうか……では私にも教えてくれないか」 「うん♪」 そしてシグナムとヴィヴィオは静かに紡ぎだす、かつて彼の母がバージルとダンテの二人に歌ったその子守唄を。 夢を見た…それは母の夢。 いつも俺が見ている母の死んだ日の夢かと思ったが、それは違った。 遠くで母は親父と一緒に俺を見つめていて、そして何故か俺の周りには大勢の人間がいた。 それは見覚えのある連中ばかりだった、やけに気さくな部隊長に危なっかしい教え子達それに俺を仲間と呼ぶ大勢の人間がそこにはいた。 そして俺の隣には桜色の髪の女と俺の手を弱弱しく握る小さな少女がいた。 その大勢の仲間に囲まれる俺を見た母は親父と共に俺を見届けると霞のように消えていく。 母が何か口を開き語りかけて来たが夢の中で何を言ったのか聞き取れなかった。 母が目の前で消え去っても、俺はもうあの胸を裂かれるような激情も絶望と共に去来する無力感も感じない。 大切な者を守れた…それを二人に見せられた事が俺の胸を満たしていった。 暖かな木漏れ日の下で静かにヴィヴィオと歌を口ずさむ中、シグナムはふと膝の上で眠るバージルの小さな変化に気づき優しい微笑を浮かべた。 それは普段の彼女を知るものなら信じられない程に柔らかく慈愛に満ちたものだった。 「“悪魔は泣かない”か………その通りだなバージル」 シグナムはそう言うと自分の指で優しくバージルの顔を撫でる、その指先には透明な一筋の水の雫が付いていた。 静かに優しく歌は続く、Devils Never Cry(悪魔は泣かない)と。 続く。 前へ 目次へ 次へ
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autolink NS/W04-040 カード名:オットー&ディード カテゴリ:キャラクター 色:緑 レベル:1 コスト:1 トリガー:1 パワー:5500 ソウル:1 特徴:《メカ》?・《武器》? 【自】アンコール[手札のキャラを1枚控え室に置く](このカードが舞台から控え室に置かれた時、あなたはコストを払ってよい。そうしたら、このカードがいた枠にレストして置く) 抵抗は・・・・・・無意味だ レアリティ:C illust.水島空彦 なんの変哲もないレベル1の手札アンコールキャラ。 しかしついにレアリティがコモンまで低下した。 スカリエッティの秘書ウーノのパンプを素で受ける事の出来る、貴重なナンバーズの一人。 特徴は《メカ》?に《武器》?と、サーチ、強化には困らないため特徴的には比較的優秀である。 魔法少女リリカルなのはStrikerSの天敵である最優の英霊セイバーを単体で倒せる貴重な戦力でもある。 ・関連ページ 「&」?
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新たに機動六課本部となったアースラが、大空を飛行していた。 雲間を漂う優雅なその姿とは裏腹に、中では乗組員一同が慌ただしく動いていた。聖闘士たちがミッドチルダに来てから、四日目の正午、ついに敵が動き出したのだ。 アースラブリッジに一同が集結する。 「待ちくたびれたぜ」 聖衣を身につけた星矢が、両の拳を打ち鳴らす。さっきまでアースラで空の旅を満喫していたが、今は真剣そのものだ。 ついでに、昨日の内に六課を出ていかなくてよかったと胸を撫で下ろしていた。 「まったくタイミングがいいような、悪いような」 はやては、シグナムの隣に浮遊しているアギトを見た。こちらの命令を遵守することを条件に、アギトは一時的に釈放された。 これまでの捜査情報とアギトから得られた情報を総合し、ようやくスカリエッティのアジトの場所が判明した。午前中は、どのようにしてアジトに攻め込むかの計画立案に費やしていたが、無駄になってしまったようだ。 ブリッジ中央の大画面に投影された地図に、アジトの場所と敵の位置情報が光点で示される。 ゾディアック・ナンバーズ十名が、それぞれ時空管理局の施設へと襲撃をかけていた。今のところ、ウーノとドゥーエの姿は確認されていない。どうやらスカリエッティは時空管理局の地上の戦力を削ぎ落としてから、ヴィヴィオを奪いに来るつもりらしい。 襲撃された施設の局員たちは徹底的に抗戦を避け、市民の避難誘導に尽力していた。 「やっぱり、ばらけて来たな」 はやてが言った。被害を抑えるには、こちらも分散して対処するしかない。 魔法と機械とコスモの力を兼ね備えたゾディアック・ナンバーズは、総合性能ではこちらを上回る。堅実な戦力の集中ではなく、効率的な同時攻撃で来たのは、スカリエッティの絶対的な自信の表れだろう。 「八神部隊長。襲撃されている施設から、通信が入りました。おそらく敵からです」 はやてが頷くと、シャーリーが通信をつなぐ。 『やっほー、聞こえてる?』 大画面が切り替わり、セインの顔が映し出される。 『そこに氷河って聖闘士がいるよね?』 氷河が一歩前に出て、セインを画面越しに睨みつける。 『ねえ、アクエリアスの聖衣って、あんたの師匠の物なんでしょ? あれ? 師匠の師匠だっけ? ……まあ、どっちでもいいや。私と勝負しようよ。この聖衣を賭けてさ』 「望むところだ」 「じゃあ、待ってるよ」 セインからの通信が切れる。 名指しで挑戦してくるあたり、確実に罠だろう。だが、どんな罠が待ち受けていようと関係ない。氷河は自らの手でアクエリアスの黄金聖衣を取り戻すと決めていた。 氷河の心情は皆理解しているので、誰も止めようとはしない。 はやては一同を前に、声を張り上げた。 「作戦目標は、スカリエッティとゾディアック・ナンバーズの捕縛。それぞれの敵を倒した者からアジトへと向かって欲しい。最優先目標はジェイル・スカリエッティ」 六課フォワード陣が、一斉にバリアジャケットを装着する。魔導師たちには、一時間の戦闘時間制限がある。おそらく魔導師たちの生涯でも、もっとも長く過酷な一時間になるだろう。 これまで、できるだけの準備をし、対策を立ててきた。それは敵も同じだろう。どちらの力と知恵と覚悟が勝るか、試される時が来たのだ。 はやては傍らにいるロッサと副官のグリフィスを振り返る。 「それじゃあ、後のことはよろしくな」 「ああ、後のことは任せてくれ」 ロッサが“後のこと”の部分をことさら強調する。ロッサはもしもの場合には、ヴィヴィオを連れて逃げる役割を担っていた。 はやては六課隊長陣と共に、ハッチへと向かう。 「シャマルさん、お願いします」 氷河に頼まれ、シャマルがアースラの転送ポートを起動させる。ヘリでは敵に撃墜される恐れがある為、聖闘士とスバルたち四名は転送ポートで送り込む手はずになっていた。 「それじゃあ、作戦開始と行こうか」 はやての合図で、聖闘士たちが転送ポートの中へ、アースラのハッチから六課隊長たちが空へと出撃していく。それぞれの戦場へと向かって。 オットーは、放棄された基地を上空から無感動に眺めていた。 敵はほとんど戦わず、あっさり撤退した。無駄な戦闘を避けられるに越したことはないが、やや拍子抜けだ。 基地の周囲には草原が広がっており、遮られることのない風が、アリエスの聖衣をまとったオットーに吹きつけている。 「見つけたぜ、オットーとやら」 投げかけられた声に振り向くと、ペガサス星矢が転送用の魔法陣の中から現れる。 「まずはアリエスの黄金聖衣を返してもらうぜ!」 オットーは問答無用で左腕をかざした。 「スターダストレボリューション」 星屑の光が幾百、幾千もの弾丸となって、星矢に降り注ぐ。 「これがムウの技か!」 「そう言えば、この技を見せるのは初めてだったね」 驚く星矢に、オットーが淡々と告げる。 「だが、この程度なら。ペガサス流星拳!」 スターダストレボリューションを、流星拳が打ち落としていく。星屑の光は数こそ多いが、狙いは甘い。一度見た後なら、余裕で防げる……はずだった。 「がっ!」 星矢が草の上にうつ伏せに倒れる。スターダストレボリューションとは別に、背後から光線が襲いかかったのだ。 「今のは?」 「僕のISレイストームだ」 オットーの右手から、無数の誘導光線が撃たれたのだ。前回の六課襲撃時には、これが猛威を振るった。 「聖闘士に同じ技は通じないらしいね。でも、二つ同時に撃たれた技は避けられない」 オットーは左手にコスモを、右手にISの光を宿した。使用するエネルギーが違うから、こういう芸当ができる。 「この技からは誰も逃れられない。スターダスト・レイストーム」 星屑と光線が嵐となって、星矢に襲いかかった。 タウラスの聖衣をまとったトーレは、高層ビル群の間に無言で浮いていた。 オットーが戦闘開始したとの連絡を受けた。そろそろここにも敵が現れるだろう。 突如、雲を切り裂き、黄金の光が降ってくる。 トーレは頭上から落ちてくる刃を、両腕に持った魔力刃インパルスブレードで受け止める。刃がぶつかり合い激しく火花を散らす。 真・ソニックフォームのフェイトが二振りの剣、ライオットザンバーを構えていた。 「あなたを待っていました」 運命の巡り合わせに、トーレは感謝した。 「ここであなたを倒すことで、前回の雪辱を果たさせてもらいます!」 「それはこっちの台詞だ!」 安全装置を外すことで、フェイトは体の軋むような負荷と引き換えに、トーレに匹敵する速度を得ていた。ビル群を光速で抜けながら、フェイトとトーレが互いに斬撃を繰り出しあう。 フェイトはトーレから決して離れず、踊るように両手の剣を振るう。得物の長さはこちらが上だ。剣技だけならばフェイトに分がある。 奇襲から一気に斬り合いに持ち込み、両腕を組む暇を与えない。グレートホーンを使わせない作戦だった。 星矢が草原に倒れる。これでもう十回目だ。 星矢は、星屑と光線の嵐をどうにかしようとあがき続けているが、ただいたずらに傷を増やしているだけだった。防御も回避も迎撃も意味はなく、この開けた草原では遮蔽物に身を隠すこともできない。 オットーのいる高さまで数十メートル。たったそれだけの距離が、星矢とオットーを絶望的に隔てていた。 オットーはいつでも技を撃てるよう、両腕を掲げている。黄金の闘士が操る星屑の海と、そこを流れる光線の川。幻想的で美しい光景だった。 武骨な星矢も、もしかしたら見とれていたかもしれない。物理的な破壊力を伴って襲い掛かってこなければ。 「……わからないな」 オットーがぽつりと言った。 「何がだ?」 「どうして君が、僕を相手に選んだかだ」 ウーノから、他のナンバーズも交戦を開始したと連絡があった。しかし、星矢はオットーに対して「見つけた」と言った。彼は最初からオットーを相手に見定めていたのだ。 オットーが空戦可能で射撃主体なのは、六課襲撃時に判明していたことだ。聖闘士をぶつけるにしても、ネビュラチェーンで遠距離攻撃可能なアンドロメダならともかく、完全近接型の星矢では、勝負にならないことはわかりきっていたはずだ。 「どうしてお前を相手に選んだかは、この勝負が終わったら教えてやるぜ」 星矢は立ち上って、口元の血を拭う。その目はまだ勝利を諦めていなかった。 「無駄だよ。奇跡でも起こらない限り、君に勝ち目はない」 数多の星屑によって相手の動きを制限し、複数の誘導光線で狙い撃つ。この合わせ技を回避するのは不可能だ。 「奇跡か……それなら、何度も起こしてきたさ」 でなければ、最下級の青銅聖闘士が、十二宮を突破などできるはずがない。 「そして、これからも何度だって起こしてみせる、アテナの為に! 俺のコスモよ、究極まで高まれ!」 星矢が跳躍した。 「スターダスト・レイストーム」 星屑の光の中を、星矢は両腕で頭部を守りながら一直線に突っ込んでくる。ただの無謀な特攻のようだが、案外理に適っていると、オットーは分析した。 広範囲に誘導弾をばらまくスターダスト・レイストームの被弾を最小限に抑えるには、その軌道が最善だ。星矢は多少のダメージを覚悟でオットーの懐に飛び込み、渾身の一撃を放つつもりなのだ。 発想は悪くないし、そんな作戦を躊躇いなく実行する度胸も評価できる。しかし、星矢の速度も作戦も、奇跡には程遠く迎撃は容易だ。 「さよなら、ペガサス」 空中では星矢は軌道変更できない。オットーに操られた全ての星屑と光線が星矢に殺到する。 これだけの攻撃が命中しては、さすがのペガサスも無事ではすまない。オットーは勝利の高揚もなく、淡々と光が収まるのを待った。 その時、羽ばたきの音が、オットーの耳を打った。 「なっ!」 これまで泰然としていたオットーが、初めて驚愕の表情を浮かべる。 星屑の光を越えて、星矢が飛翔していた。その背には、白く輝く翼。 「ペガサスの翼!?」 星矢のコスモに、聖衣が応えたのだ。翼が羽ばたき、オットーへと急降下をかける。 「まだだ、クリスタルウォール!」 オットーの前に透明な壁が発生する。あらゆる攻撃を反射するアリエスの技だ。 「これで終わりだ、オットー! ペガサス彗星拳!」 無数の流星拳が一つとなった彗星が、クリスタルウォールと激突する。 一瞬、クリスタルウォールは耐えたかに見えた。しかし、次の瞬間、澄んだ音を立てて、クリスタルウォールが砕け散る。 ペガサス彗星拳が、オットーに炸裂した。 フェイトとトーレは、激しく剣戟の音を響かせながら戦い続けていた。 「なるほど、グレートホーンを使わせない作戦ですか」 フェイトの意図を呼んだトーレが嘲りの笑みを浮かべる。 「ですが、甘い!」 トーレの力のこもった斬撃が、フェイトの体をわずかに押し戻す。それだけで充分だった。インパルスブレードを持ったトーレの両腕が組まれる。 「見せてあげましょう。私が新たに編み出した技を」 フェイトはすぐさまその場から飛び退く。 「グレートホーン・インパルス!」 武器によって強化された衝撃波が放たれ、フェイトの背後にあった高層ビルを半ばからへし折る。 フェイトの背筋を戦慄が駆け抜ける。腕を組んだ瞬間に回避機動を取ったからどうにかなったが、グレートホーンより威力が数段上がっている。防御は不可能だ。 「もはや、あなたに勝ち目はない!」 トーレは腕組みをしたまま勝ち誇る。光速機動を実現できる魔導師など、六課ではせいぜいフェイトくらいだろう。ここでフェイトを倒し制空権を支配すれば、ナンバーズの勝利はより確実なものとなる。 フェイトは距離を取りながら、思案を巡らせる。 トーレの腕組みを解く術は、フェイトにはない。一応、射撃、砲撃系の魔法も速度向上の改造を施してあるが、黄金聖衣の防御力を抜ける威力の魔法となると、チャージ中に距離を詰められて終わりだろう。 ならば、残された手段はたった一つ。グレートホーンよりも速く敵を貫くだけ。 フェイトは二つの剣を一つに合わせたライオットザンバー・カラミティを水平に持つ。それはエリオの突撃時の構えと瓜二つだった。 刹那、フェイトは感慨深い思いに浸る。教えているつもりが、いつの間にかこちらも教えられている。人と人との関係は決して一方通行ではないのだ。 フェイトは静かに息を吐き、緊張に強張っていた筋肉をほぐす。次の攻撃に一切の遅滞は許されない。精神を研ぎ澄まし、己を一振りの剣と化す。 フェイトの魔力が黄金の光を放つ。リミットブレイク、真・ソニックフォーム。限界を超えた、さらにその先に行く。 「はああああああああああああっ!」 光の尾を引きながら、フェイトが突き進む。 「グレートホーン・インパルス!」 インパルスブレードが、フェイトの両の脇腹を切り裂き、ライオットザンバー・カラミティがトーレの腹部に突き刺さる。黄金聖衣に傷はつかないが、魔力ダメージは着実に浸透している。 トーレの刃は、フェイトの脇腹の皮を一枚切り裂いただけだった。フェイトは痛みに構わず、カラミティを握る手にさらなる力を込める。 「馬鹿な! グレートホーンの発生速度を超えた!?」 「やっぱり気づいてなかったんだね」 フェイトが鋭い眼差しが、トーレを射抜く。 グレートホーンは居合いと同じ。しっかりと両腕を組むことで、黄金聖闘士でも一、二を争う技の発生速度を誇る。 しかし、インパルスブレードを握ることで腕組みが浅くなり、トーレ自身も気がつかない程の、わずかな遅延を発生させていたのだ。 もしトーレが普通にグレートホーンを使っていたならば、よくて相打ちだっただろう。いや、防御力の差から、フェイトは一太刀浴びせただけで、無様に地に伏していた。 グレートホーンは完成された技。アレンジなど必要なかったのだ。 黄金の光がもつれ合うようにして、大地に激突する。その様はまさに雷光だった。 オットーから分離した黄金聖衣が、牡羊のオブジェとなって鎮座している。 オットーは草原に寝そべりながら、ぼんやりとそれを眺めていた。聖衣に取りつけられた機械は彗星拳の衝撃で粉々に粉砕された。もうオットーがあの聖衣を着ることはできない。 常人ならば死んでいてもおかしくない一撃だった。しかし、そこは戦闘機人。動けはしないが、どうにか一命を取り留めていた。 「……なるほど。ペガサスの翼に、クリスタルウォールの弱点。これが君が僕を相手に選んだ理由か」 彗星拳はクリスタルウォールの一点を狙っていた。そこは六課襲撃時、ヴォルテールの業火によってあぶり出された、もっとも脆い場所だった。聖闘士に同じ技は通用しないのだ。 「クリスタルウォールの弱点はあってるんだが……」 ペガサス聖衣の翼が展開したことに、一番驚いていたのは星矢だった。元々ペガサスの聖衣に翼があるのは知っていたが、まさか展開できるとは思わなかった。役目を終えた翼は収納され、もう展開することはできない。 「? じゃあ、君が僕を選んだ理由は……」 「女相手じゃ戦いにくいからな。ナンバーズに男がいてくれて助かったぜ」 星矢はストラーダ型通信機を取り出し、オットーの捕縛とアリエス聖衣の回収をアースラに頼むと、そのまま走り去っていく。 オットーの性別は不明であり、男というのは星矢の思い込みだ。 「僕は……」 オットーの最後の呟きは風に紛れて、誰の耳にも届かない。星矢に呆れたのか、あるいは、本当の性別を言ったのかもしれない。 もうもうと土煙と上げながら、トーレは陥没した路面にめり込むように倒れていた。 「……まさか、そんな」 トーレが呻き声を上げる。技をアレンジし新たに弱点を発生させるなど、本末転倒もいいところだ。どうしてそんな初歩的なミスを犯したのか。 「あなたは何を焦っていたの?」 脇腹の傷を押さえながら、フェイトが静かに問いかける。トーレの斬撃からは、わずかだが焦りが感じられた。 「焦り? ……なるほどな」 トーレは自分の中でくすぶっていた感情の正体に、ようやく思い至る。 トーレのISライドインパルスは、高速機動を可能にする。かつては強力な能力だったライドインパルスだが、コスモの台頭によって無用の長物と化した。 ISでは物理法則の壁を越えられない。コスモとライドインパルスを併用しても、光速を超えることはできなかったのだ。 他の姉妹たちがISとコスモを高いレベルで併用しているのに対し、トーレだけがタウラスの技に頼るしかなかった。 「私の矜持が邪魔をしたか」 トーレはナンバーズの実戦リーダーだ。他の姉妹たちの模範となれないことが怖かった。前回、フェイトを仕留めきれなかったことが、その恐怖にさらに拍車をかけた。だから、必要もないアレンジ技など開発し、精神の安息を得ようとした。 「あなたを逮捕します」 フェイトは慎重な足取りで、トーレに近づく。 「しかし、私にも意地がある!」 トーレの手からを光弾が発射される。 光弾はフェイトの足元に着弾し、土砂を巻き上げ視界を塞ぐ。 その隙に、トーレは空へと逃げのびる。失神寸前のダメージを負いながら、意地だけで飛んでいた。 「待て!」 フェイトは追いかけようとしたが、膝から突然力が抜ける。バルディッシュを杖代わりにして、どうにか転倒を免れた。 フェイトは手で口元を押さえる。口から溢れた鮮血がフェイトの手を赤く染める。 フェイトの脇腹の皮を一枚切り裂いただけの腕の振り。不発だったはずのグレートホーンから発生した衝撃波が、フェイトの内臓を傷つけていた。 「これが……グレートホーン!」 いかに真・ソニックフォームの防御力が薄くても、たったあれだけの腕の振りで、威力を発揮するタウラスの技に、フェイトは戦慄する。 かつて星矢たちと戦った時、タウラスの黄金聖闘士アルデバランは本気ではなかったという。本気のタウラスに正面から挑んで勝てる者など存在するのかと、フェイトは思った。 激痛とめまいにフェイトがよろめく。今すぐ倒れて気を失ってしまいたいが、戦いはまだ終わっていない。フェイトは痛む体を引きずって、トーレを追いかけた。 目次へ 次へ
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2008年7月9日(水) @投票所板 01 00 00~23 00 59 一次予選 第3組 出場121人 一人持ち票9票 1位~9位まで本戦進出、10位~30位まで二次予選進出 組み合わせ コピペリスト 結果 詳細データ 01組 02組 03組 04組 05組 06組 07組 08組 09組 10組 11組 12組 13組 14組 15組 16組 17組 18組 19組 20組 03組 花咲美幸@親子クラブ 03組 立花つぼみ@ないしょのつぼみ 03組 紬屋雨@BLEACH 03組 シルヴィア・ミラボー@機神大戦 ギガンティック・フォーミュラ 03組 瀬戸蓮@瀬戸の花嫁 03組 真祖フミ@舞-乙HiME シリーズ 03組 久佐子@もっけ 03組 由起@ミヨリの森 03組 ビアンキ@家庭教師ヒットマンREBORN! 03組 日塔奈美@さよなら絶望先生 03組 雪村杏@D.C.II ~ダ・カーポII~ 03組 風間京子@ムシウタ 03組 ヘレン@CLAYMORE 03組 杉山@銀魂 03組 小早川栞@REIDEEN 03組 泉絵美@ef - a tale of memories. 03組 シズル・ヴィオーラ@舞-乙HiME Zwei 03組 萩原雪歩@アイドルマスター シリーズ 03組 フォンクライスト卿ギーゼラ@今日からマ王! 第3シリーズ 03組 ノネット@コードギアス 反逆のルルーシュ R2 03組 ナンシー・プリースト(ナンシー大叔母さん)@風の少女エミリー 03組 ナタリー@CLAYMORE 03組 井上@コードギアス 反逆のルルーシュ 03組 速瀬水月@君が望む永遠 ~Next Season~ 03組 メイフォン・リウ@BLASSREITER 03組 園宮可憐@スカイガールズ 03組 円谷朝美(光彦の姉)@名探偵コナン 03組 村上銀子@紅 03組 柴凛@彩雲国物語 03組 田倉高校での参考戦で他コースを泳いでいた女の子@ケンコー全裸系水泳部 ウミショー 03組 織塚桃子@ケンコー全裸系水泳部 ウミショー 03組 マリエル・アテンザ(マリー)@魔法少女リリカルなのはStrikerS 03組 榊千鶴@君が望む永遠 ~Next Season~ 03組 変態エスパーに金縛りされた少女@絶対可憐チルドレン 03組 中澤組のドール @Darker than BLACK -黒の契約者- 03組 瑠璃子@もえたん 03組 七つ子@味楽る!ミミカ 03組 持田雛子@Myself;Yourself 03組 マイト・ザ・フール@ドルアーガの塔 ~the Aegis of URUK~ 03組 山本梓@名探偵コナン 03組 若月朱里@Myself;Yourself 03組 桃山先生@おねがいマイメロディ すっきり♪ 03組 島津由乃@マリア様がみてる OVA 03組 アウローラ@GUNSLINGER GIRL -IL TEATRINO- 03組 アルト・クラエッタ@魔法少女リリカルなのはStrikerS 03組 高見沢舞子@東京魔人學園剣風帖 龍龍 第弐幕 03組 HMX-17b ミルファ@OVA ToHeart2 03組 アラクネア@Yes! プリキュア5 03組 高良みゆき@らき☆すた 03組 レナルドの妻@ウエルベールの物語 第二幕 03組 桜乃杜高校校長@Myself;Yourself 03組 明石好美(薫の姉)@絶対可憐チルドレン 03組 長ヶ部澪@かのこん 03組 アクーネ@スパイダーライダーズ ~よみがえる太陽~ 03組 ダークミント@Yes! プリキュア5 鏡の国のミラクル大冒険 03組 ヒロ子@怪物王女 03組 ジェミニ・サンライズ@サクラ大戦ニューヨーク・紐育 03組 朔望@.hack//G.U. Returner 03組 フィレス@灼眼のシャナII 03組 星見様@Darker than BLACK -黒の契約者- 03組 雪牙姫@桃華月憚 03組 鷹縁結子(切子の姉)@狂乱家族日記 03組 星井美希@アイドルマスター ライブフォーユー! OVA 03組 フェイト・T・ハラオウン@魔法少女リリカルなのはStrikerS 03組 神園九段付きの女医@しおんの王 The Flowers of Hard Blood. 03組 カナリア・ベルシュタイン@マクロスFRONTIER 03組 花沢花子@サザエさん 03組 糸色倫@さよなら絶望先生 03組 座敷童子@ゲゲゲの鬼太郎 03組 早見笙子@魔人探偵脳噛ネウロ 03組 ユーフェミア・リ・ブリタニア@コードギアス 反逆のルルーシュ R2 03組 三浦あずさ@アイドルマスター シリーズ 03組 桜田ネネ@クレヨンしんちゃん 03組 飛走泳美@ななみちゃん 03組 メイル・アル・メヒリム@ヒロイック・エイジ 03組 妃英理@名探偵コナン 03組 ミキ@しゅごキャラ! 03組 天宮小百合@ときめきメモリアル Only Love 03組 伊佐坂浮江@サザエさん 03組 トメ@二十面相の娘 03組 アスモダイ@レンタルマギカ 03組 宿屋の主人の影@BLUE DRAGON 03組 神崎真由@ラブ★コン 03組 エタナ@ドルアーガの塔 ~the Aegis of URUK~ 03組 香月みち子@BLUE DROP ~天使達の戯曲~ 03組 上原友佳里@河童のクゥと夏休み 03組 井上喜久子@俗・さよなら絶望先生 03組 ペペ@しゅごキャラ! 03組 小松菜圭子@CODE-E 03組 オロカブ@ヤッターマン 03組 井上@図書館戦争 03組 桜塚美紀@おねがいマイメロディ すっきり♪ 03組 近江薫@異国色恋浪漫譚 03組 しずかの母@ドラえもん 03組 リッテ・ラートゥス@プリズム・アーク 03組 小牧郁乃@ToHeart2 シリーズ 03組 妖精@ソウルイーター 03組 野村@ひぐらしのなく頃に解 03組 デネヴ@CLAYMORE 03組 うすいさちよ@おじゃる丸 03組 水瀬伊織@アイドルマスター シリーズ 03組 高遠美緒@金色のコルダ ~primo passo~ 03組 水澤摩央@キミキス pure rouge 03組 負け犬荘の管理人(女豹/ダーちゃんの嫁)@おねがいマイメロディ すっきり♪ 03組 赤羽くれは@ナイトウィザード The ANIMATION 03組 日吉啓子@もっけ 03組 ミランダ・ロットー@D.Gray-man 03組 ヒトミ@ICE 03組 折口マキ@図書館戦争 03組 李美永(イ・ミヨン)@かみちゃまかりん 03組 スゥ@しゅごキャラ! 03組 アマンダ・ウェルナー@BLASSREITER 03組 アッシュフォード学園水泳部の女の子達(貧乳娘除く)@コードギアス 反逆のルルーシュ R2 03組 朱子(ベニス)@君が主で執事が俺で 03組 両儀式@劇場版 空の境界 the Garden of sinners 03組 グレイス・オコナー@マクロスFRONTIER 03組 ムラサキ@ICE 03組 上原瞳@河童のクゥと夏休み 03組 カケイ・リョウコ@DRAGONAUT -THE RESONANCE- 03組 サラ・ギャラガー@舞-乙HiME Zwei 03組 サテ@カイバ